スイート×トキシック
「……可愛いこと言ってくれるね。俺の手料理、気に入ったんだ」
それは心の中でも否定出来ない。
胃袋を掴むという彼の作戦だったのかな。
「いいよ、じゃあパスタ作ってあげる」
「本当? やった、ありがとう!」
内心、拳を突き上げたい気分になった。
「そんなにパスタ好きだったの? さすがに知らなかったな」
そういうわけじゃない。
わたしが喜んでいるのは、目的のための第一関門を突破したからだ。
誤魔化すように笑いつつ、思考を巡らせる。
あとはどうやってフォークを持ってきてもらうか。
そして、それをどうやって手にするか────。
“彼に食べさせてもらう”といういつもの流れを、どうしたら断ち切れるだろう?
普通に願い出れば、機嫌を損ねてしまうことは明白だ。
そんなことを考えていると、おもむろに十和くんがもたれていた背を壁から起こした。
「じゃあ作ってくるから待っててね」
ぽん、と大きな手が頭に載せられる。
「!」
図らずもその動作は、わたしにヒントを与えてくれた。
彼が立ち上がろうとしたのを、カーディガンの裾を掴んで引き止める。
「……?」
不思議そうな表情で振り向いた十和くんと目が合った。
臆せず口を開く。今なら大丈夫。
「わたしのこと、子ども扱いしないで」
拗ねたように言ってみせれば、彼は驚いたような慌てたような調子で座り直した。
困ったように覗き込んでくる。
「してないよ、どうしたの」
「してるよ! ご飯食べさせたりとか、すぐ頭撫でたりとか」
十和くんは瞬いて視線を流した。
思い当たる節があったらしく、眉を下げて苦く笑う。
「あー、確かにそうかも。……ごめんね?」
窺うような上目遣いで、こてんと顔を傾けた。
何でも許してしまいたくなるようなあざとさだ。
わたしにもそんなことが出来たら、もう少し簡単に目的を果たせるのかも。
「でも、全然そんなつもりはなかったんだけどな。芽依が可愛いから、必要以上に構いたくなるだけだよ」
(また恥ずかしげもなく……)
そう思ったけれど、そりゃそっか、と納得した。
恥ずかしがる必要がないんだ。
ここには、わたしと十和くんのふたりだけしかいないんだから。
今さら想いを隠す必要も、遠慮する必要もない。