スイート×トキシック
「けど、分かった。気をつけるね。芽依に嫌な思いはさせたくないから」
どの口が言っているんだ、と思ったものの、案外それが本心なのかもしれなかった。
最近の十和くんを見ていると、そう思えてくる。
わたしが従順でいる限りは害が及ばないから。
なるほど確かに、彼が最初に言っていた通りだ。
ふたりで仲良く暮らしたいだけ、って。
そのために馬鹿な真似はするな、って。
(割と誠実なのかも……)
彼のスタンスは一貫していて揺らがない。
自分の望みを叶えるためだけかもしれないけれど。
*
完全に日が落ちた。
あれからしばらくして、ドアがノックされる。
「芽依、ご飯出来た。開けていい?」
向こう側に「うん」と答えつつ、やけに優しい気遣いに気が付く。
今までは無遠慮に踏み込んできたのに。
ノックしたって形だけで、わたしに選択権なんてなかったのに。
かちゃりと鍵が開き、トレーを持った十和くんが入ってくる。
目が合うと柔らかい微笑を向けられた。
(────鏡みたい)
ふと、そんなことを思った。
歩み寄ればその分だけ、彼も応じてくれるんだ。
優しくすれば、優しくしてくれる。
受け入れれば、大切に扱ってくれる。
でも……“嘘”を映したらどうなるんだろう?
十和くんは気付いているのかな。
テーブルに置かれたのは、ミートソースパスタだった。
ごろっと入ったひき肉とトマトベースの甘いにおいに食欲をそそられる。
「わあ、ありがとう」
要望を聞いてくれたことと作ってくれたことに対してお礼を告げた。
その傍らでそっと機会を窺う。
トレーの上を見た。
フォークが2本、端の方に載っている。
(取れるかな……)
目的を意識すると、緊張から鼓動が速くなった。
失敗したら、きっと前よりひどい目に遭う。
首を絞められるだけでは、脚を切り刻まれるだけでは、済まないかもしれない。
(でも……やるしかない)
十和くんと馴れ合って“脅威”と共存していくことなんて、わたしには出来ない。
ドアを閉めるために彼が振り返った隙に、わたしはトレーへ手を伸ばした。
油断なく目で彼の姿を追いながら、音を立てないようフォークを1本掴もうとする。
「!」