スイート×トキシック

　手錠ごと手首を引っ張られる。
　立ち上がるなり強く引かれ、否(いや)が応(おう)でも連れていかれてしまう。

(痛い……！)

　金属が肌に食い込んで悲鳴を上げていた。

　監禁部屋に戻ったら、この程度じゃ済まないほどの暴力を振るわれる。
　今度こそ殺されるかもしれない。

　咄嗟にそう思い、怯(ひる)みながらも抵抗しようとした。

「ま、待って！　話そうよ、普通に」

「やだ。口で言ったって分かってくれないじゃん」

「そんなこと……！」

　ぴた、と彼が足を止めた。
　振り向いたその目は冷ややかだった。

「あるでしょ。俺が大人しくしてたら、つけ上がって逃げ出そうとした。痛い目見ないと分かんないってこと」

「違う！」

「じゃあ、俺の気持ちなんてどうでもいいんだね。自分のためだけに出て行って、俺を悪者にしようとしてたんだ？」

　怒りと失望と悲しみと、色々な激情が混ざり合ったみたいな光の乏(とぼ)しい目をしていた。

　わたしを責める眼差しは、めちゃくちゃな言い分を正当化するようだった。

　わたしが悪いの……？

「それは、だって……」

「俺は芽依のこと信じてたよ。だから先生のこと話したし、フォークのことも気付かないふりしたのに」

「え？」

　思考が止まった。
　どういうことだろう。

「芽依も俺のこと信じてくれるかなって、期待してたんだけどなぁ」

　まるで自分が被害者みたいなことを言っているが、要はわたしの従順さが本物かどうかを試したということなのだろう。

　わたしの好きな人が先生だってことも知っていたんだ。
　だから昨日、あえて彼の話題を持ち出して煽(あお)った。

　フォークを奪ったことにもとっくに気付いていたのに、このために見逃したんだ。

　きつく唇を噛み締める。
　昨日抱いた危機感とも言える予感は正しかったわけだ。

「……何それ。そんな都合のいい────」

　頬に衝撃が走ったような気がして言葉が遮(さえぎ)られた。

　一拍遅れてやってきた痛みに、殴られたのだと気が付く。

「うるさい」

「な……」

「今の芽依は可愛くないから嫌い」

　蔑(さげす)むような眼差しに言葉が出なかった。

　都合が悪くなると感情が優先されるらしい。

　わたしが反抗的だと自分の思い通りにならないから、気に食わなくて機嫌を損ねるのだ。

「だったらもうここから出してよ！　嫌いなら、一緒にいる理由もないでしょ！」