スイート×トキシック

 かっとなって言い返した途端、十和くんに首を掴まれた。
 片手だったが、締め上げる力は簡単に逃れられないほど強い。

「……っ」

「勝手に決めないでくれる? 君に選ぶ権利なんかないから」

 呼吸は出来るが、思うように酸素を吸えなくて苦しい。
 泣きたくなんてないのに、じわりと涙が滲んだ。

「可愛くない芽依は嫌いだけど、でもそれも含めて愛しいんだよ。手放すわけないじゃん」

 恍惚(こうこつ)と微笑む十和くんはまさしく狂っていた。

 ────彼の愛には、わたしがいない。
 いつだって大事なのは自分の想いと感情で。

「でもやっぱり素直で可愛い芽依が好きだから……取り戻さないとね」

 そう言ったかと思うと、ぱっと手が離れた。
 わたしは首を押さえながら咳き込む。

(苦しい……)

「ほら、おいで」

 無理矢理手を引かれ、立ち上がった。
 頭が朦朧(もうろう)として何も考えられない。

 力が入らず彼に(ゆだ)ねていると、あの監禁部屋へ戻ってきていた。



「いや……!」

 はっとして慌てるが、ドアの前を彼に(ふさ)がれていて出られない。
 容赦(ようしゃ)なく蹴られ、床にうずくまる。

(()った……っ)

 脇腹のあたりがじんじんした。

 強く押さえて(もだ)えていると、顔のすぐ横、ほとんど目の前に何かが飛んでくる。

「!?」

 キィン! と床が(はじ)いたそれを見やれば、わたしが鍵を開けるのに使ったフォークだった。

 あとほんのわずかでもずれていたらと思うと、ぞくりとした。

 わたしの顔目がけて投げたの?
 それともあえて外したの?

 どちらにしても正気の沙汰(さた)ではない。

 信じられない気持ちで十和くんを見上げれば、甘ったるくて熱い眼差しが返ってきた。
 うっとりと頬を染め、満足そうだ。

「そうそう、その怯えた感じ。大好き」

「……っ」

 背筋が凍えるようだった。

 記憶の中の優しかった彼が幻のように消え去る。

 ただ、こうしてわたしを追い詰められる時を待って、息を潜めていたに過ぎなかったのだ。

(逃げなきゃ……)

 頭では分かっている。
 本能が警鐘(けいしょう)を打ち鳴らす。

 でも、逃げ場なんてない。

 身に染みてそれを理解しているからか、身体を起こす気力さえ湧かなかった。

 床にうずくまって倒れるわたしの方へ、十和くんが悠々(ゆうゆう)と歩み寄ってくる。

「俺、苦しそうな芽依の顔も好きなんだよね。だからさ……ほら、もう1回見せて」
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