スイート×トキシック
何をされるか想像はついたものの、抗うより先に彼が馬乗りになった。
逃れようともがいても、手錠の鎖を掴まれるだけで何も出来なくなる。
「嫌……。やめて!」
「しー。抵抗するならまた痛くするよ?」
わたしの唇の前で人差し指を立て、すっと顔を寄せてきた。
目に映る彼の表情が、狂ったように歪む。
「いい子」
すっかり恐怖に支配され、声すら出せなくなった。
言いなりになったことで気をよくしたのか頭を撫でてくる。
(だから騙されちゃうんだよ……)
その手はあたたかくて、あまりにも優しくて。
優しい一面と残酷な一面。
コントラストが大き過ぎるから、どっちかしか見られない。
どっちかしか信じられない。
(わたしのせいなの……?)
本当はその温もりが正しいのに、わたしが失望させたせいで豹変してしまったのかもしれない。
本当は暴力なんて不本意なのに、わたしが言う通りにしないから仕方なく手を上げているのかもしれない。
(先に裏切ったのは、確かにわたし)
十和くんはわたしを信じて試していただけだったのに、わたしはその信頼に応えられていなかった。
ぐにゃりと視界が揺らいだ。
滲んだ涙に覆われている。
何の涙なんだろう……?
感情が追いつかなくなるといつも泣きそうになる。
目の前を捉えられないうちに、首に彼の手が触れた。
(やだ……、嫌だ……!)
もうあんな苦しみは味わいたくない。
今度こそ殺されるかも────。
引き剥がそうと必死でその腕を掴んだ。
しかしその分だけ、比例するように首を絞める力が強くなっていく。
「う……っ」
「ふふ、いい表情してる。生かすも殺すも俺次第なんだよね」
その言葉通り、彼は手に力を入れたり緩めたりを繰り返していた。
わたしの命を弄んでいる。
「十和、くん……」
「うわ、やば。そんなふうに呼ぶのは反則だって。可愛すぎ」
「……っ」
ぐ、と一層強く絞められる。
息を吸っても全然足りなくて、呼吸の間隔がどんどん狭く浅くなっていく。
苦しい。苦しい、苦しい……!
息が出来ない。
つ、とこめかみを熱い雫が伝っていった。
視界が晴れて、やっとまともに彼と目が合う。
(ばかだ、わたし……)