スイート×トキシック

 正しさも何もかも見失っていた。
 十和くんを正当化しないと、耐えられそうになかったからだろう。

(でも、違う)

 こうなったのは、わたしのせいなんかじゃない。
 わたしが悪いわけがない。

 彼の(たぎ)るような瞳を見て我に返った。
 ぜんぶぜんぶ、十和くんの身勝手でいびつな恋心のせいだ。

(死にたく、ない……)

 こんな奴に殺されたくない。
 こんなところで死ねない。

 そう思うのに、意思と反して身体から力が抜けていく。
 少しでも気を緩めた瞬間、意識が飛んでしまいそうだ。

 ふわ、と目の前が傾いた。
 頭が真っ白になる────。

「は……っ」

 ふっ、と圧迫感が消えた。
 不意に喉元を空気が通り過ぎ、むせ返る。

 (あえ)ぎ苦しむわたしを、十和くんは嬉しそうに眺めていた。

「殺されると思ったの? そんなに怯えて……ほんと可愛いね、芽依は」

 肩で息をしながら、床に伏せる。

 ……見られたくない。
 下劣(げれつ)で冷ややかなその目に映りたくない。

「確かに殺したいくらい好きだけど」

 十和くんはわたしの心情などお構いなしに、さら、と頬にかかった髪を流した。
 嫌でもその双眸(そうぼう)に捉えられる。

「馬鹿だなぁ。殺さなくたってもう、君は俺から離れられないよ」

 眼差しや温もりが、(とげ)を持った(つた)のように絡みついてきた。

 どういう意味なんだろう。

 一生、ここに閉じ込められるということ?
 それともわたしの心が毒に(おか)されてしまうということ?

「そんな、わけない……」

「そう? どうかな」

 意味ありげな微笑を残し、彼は立ち上がった。

「とりあえず、芽依にはお仕置きしないと」

 おもむろに()ちばさみを取り出す。
 その鋭い先端がこちらに向けられた。

 はっと息を呑み、咄嗟に後ずさろうとする。

「お、お仕置きなんて、そんなのいらないって……!」

「どうして? 痛い目に遭わなきゃ、いいことと悪いことの区別もつかないんでしょ」

「そんなことない! ちゃんと分かるから」

「へぇ」

 十和くんが目を細めた。

「じゃあ分かってて逃げ出そうとしたんだ?」

「それ、は……」

「違う? なら、やっぱ分かんないってことだね」

 どう答えても彼に都合がいい。
 すっかり追い込まれ、言葉が出てこない。
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