スイート×トキシック
彼に握られたわたしの手が熱を帯びた。
反対に顔からは血の気が引き、ちぐはぐな自分の状態に余計混乱する。
それでも朝倉くんは変わらず、心の底から慈しむような微笑をたたえていた。
「好きなんだ、芽依ちゃん」
────誰かから告白されることが、誰かに想われていることが、これほど恐ろしいなんて初めてだ。
逸らされることのない瞳に捉えられ、呼吸が震えてしまう。
「わ、わたし……」
反射的に声を絞り出したけれど、後に言葉が続いてくれない。
何か言わなきゃ。答えなきゃ。
あのはさみの切っ先が、再び迫ってくるような気がした。
こんな状況で、素直に好意を受け取れるはずなんてない。
こんな状況じゃなくても、そもそもわたしは朝倉くんに対して特別な感情など持ち合わせていない。
(でも……)
拒んだら、どうなってしまうのだろう。
気を悪くしたら殺されるかもしれない。
それ以前に、この場においてわたしに選択権なんてないんじゃ……?
「……!」
青ざめたわたしの頬を彼の手が撫でた。
「君は俺のお人形だから。好きにさせて貰うね」
身体が強張る。
怯えきった心がいくら現実を拒絶しても、目の前の光景は少しも揺らがない。
朝倉くんの柔らかい笑顔が歪んでいく────。
「一緒に堕ちよっか」
*
────どのくらいの時間が経ったのだろう。
彼は特に何をするでもなく部屋を出ていって、わたしは一人残された。
ガムテープは剥がしてくれたけれど、手足の拘束は解かれていない。
床に座り転んだまま、カーテンの下から窓を覗いた。
磨りガラス加工が施されており、外の景色は見えない。
身体を通せるほどの大きさもない。
立ち上がれないため、まず視点が届かなかった。
ただ、薄暗い光が白く漂っていることは分かる。
……学校を出たのが午後の3時過ぎくらいだったかな。
どれほど意識を失っていたのかは分からないけれど、まだ日は完全に落ちていないようだ。
(どうしよう……)
何から考えればいいのか分からない。
頭の中がぐちゃぐちゃだ。
確かなのは、わたしは朝倉くんに誘拐されて監禁状態にあるということ。
信じられない事態だけれど、受け入れるほかに選択肢がない。
常軌を逸した彼の笑顔が色濃く焼きついて離れない。
手錠の感触が現実感を刻んでいく。