スイート×トキシック

 首の後ろ側にあたる部分に赤茶色っぽい染みが浮かんでいた。

「わたしの?」

 慌てて後頭部から首にかけて触れてみる。
 これが血なのだとしたら、そこから垂れて染みたのだと思った。

 しかしそこに怪我をした覚えはなく、当然ながら傷もない。

「何の血なの……?」

 どく、と心臓が跳ねた。
 不穏な予感しかせず、おののいてしまう。

 ほかについていないか、くまなく探した。

 小花柄に溶け込んでいたが、背中部分の内側にも変色した小さな血の染みがあるのに気付く。

 そこであればわたしも怪我をしているから、わたしのものかもしれないが────。

(でも……この首のとこは違うよね?)

 わたしの傷から流れた血がついた?
 こんなところに?

 十和くんが血のついた手で触った?
 服を持ってきたのは、暴力を受けた日とは別だった。

「誰の血なの……?」

 そう呟くと、ぞくりと背筋が冷たくなった。

 染みてからかなり時間が経っているように思える。
 ワンピースからは洗剤のにおいがしていたし、洗濯しても落ちなかったのだろう。

 わたしのものでも十和くんのものでもないとしたら……?

 その意味を考え、目眩(めまい)を覚えた。

 恐怖で満たされた身体が小刻みに震える。
 血の気を失い、ひどく寒くなった。

「まさか……」

 十和くんの笑顔が記憶の中で歪んでいく。

 狂った恋心、危険なまでの独占欲────甘い毒がじわじわと溶け出す。

(わたしがここへ連れてこられる前にも、誰かいたの……?)

 彼の愛に飲み込まれた人が。

 連れ去られて監禁されたのは、わたしが初めてじゃなかったのかもしれない。



『思った通り似合うなぁ。芽依のために用意しといたんだよ』

「……嘘つき」

 このワンピースはきっと、わたしより前にここにいた人のものだ。

(どうなったの……?)

 さっき自分で閃いたことが蘇ってくる。

 この血の染みは後頭部から垂れてきたか、首の後ろ側から染みたか。
 どちらにしたって位置的に致命傷となりうる。

「殺、された……?」

 消え入りそうな声が震えた。

 これ以上、考えるのは恐ろしくてたまらない。
 でも、考えなくちゃいけない。

 もし本当に殺されてしまったのだとしたら、次はわたしの番だ……。

 もう秒読みは始まっているかもしれない。

 わたしが逃げ出そうと企んでいることに気付いてなお泳がせていたみたいに、彼はただ“そのとき”を待っているのかも────。

(……やだ)

 ぎゅう、と震える手で服を握り締めた。

(嫌。わたしは死にたくない……)
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