スイート×トキシック

 ────とにかく今は情報が欲しい。

(この服の持ち主……生きてる可能性だってあるんだよね?)

 彼女がどうなったのかを探らないと。

 ただの疑惑(ぎわく)に振り回されて、不信感だけを(つの)らせては駄目だ。
 それこそが十和くんの狙いかもしれないのだ。

 もう、わたしを痛めつけるための新たな口実や隙を与えたりしない。

 そのときは今度こそ、傷を負うだけじゃ済まされないだろうから。



*



 日が傾き、十和くんが帰ってきた。

 玄関の音、そして近づいてくる足音に心音が速まっていく。

 普通にしていたいのに、怖くてどうしても緊張が拭えない。

 おさえ込もうとすればするほど震えが止まらなくなる。

 ドアが開いた。
 心臓が爆発しそうだった。

「ただいま、芽依」

「あ……おかえり」

 木枯(こが)らしが吹きつけてくるみたいに寒く感じて、強張った頬は中途半端な表情を作った。

 しかし彼は特に気に()めることなく笑う。

「やっと出迎えてくれた。ここのとこずーっと無視だったから嬉しい。こう見えて傷ついてたんだよ?」

「ご、ごめんね……」

 心臓が暴れて、ひどく喉が渇いた。

 何がトリガーになるか分からないなんて、こんな恐ろしいことがあるだろうか。

 咄嗟に取り(つくろ)ってから後悔した。

(今の、よくなかったかも)

 何となく、媚びていたときのわたしっぽい。

 さっと血の気が引いた。

 気に食わなかったら殺されるかも。

 さらに彼の“秘密”の片鱗(へんりん)に触れたことを勘づかれたら……。

 どくん、どくん、と一層強く速く脈打つ。
 あまりの不安に息苦しくなってくる。

「何、どうかした? やけに素直だね」

 くすくすと笑った十和くんがからかうように言う。
 それから心配そうな面持ちで覗き込んでくる。

「てか、顔色が真っ青だよ。具合でも悪いの?」

 ぞく、と背筋が(しび)れた。

 純粋に案じてくれているのか、(かま)をかけられているのか分からない。

「平気、気にしないで……」

「ほんと? ならいいけど」

 十和くんの視線が床に(たた)んでおいたワンピースへと落とされる。
 わたしは慌てて拾い上げた。

「あ、これ────」

「着替えちゃったんだね。可愛かったのにな、残念」

 肩をすくめる彼を見やる。
 返そうと思ったが、服を持つ手に力が込もった。

 彼の意を()んで着たままでいた方が、きっとその機嫌を保っていられたと思う。

 だけど、あんな残酷な可能性に気付いてしまったのにそれは無理だ。

 わたしはそんなに器用じゃない。
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