スイート×トキシック
十和くんの機嫌をとることは確かに大事だが、それ以上にやらなきゃいけないことがある。
(少しでも情報を得る。……それしかない)
怖いけど、探らなきゃ。
後がなくなってからじゃ遅い。
待っているのは死だけかもしれない。
「これ、さ……どこで買ったの?」
ワンピースを掲げつつ尋ねる。
「ん?」
「わたしのために用意したって言ってたでしょ。本当に可愛くてわたし好みだったから気になって」
「あー……」
彼は視線を流し、ややあって答えた。
「……ごめん、覚えてないや」
それにしては答えるのに時間がかかっていたような気がする。
しかし、あえて触れることはしないでおく。
「そっか」
「うん、たまたまショーウィンドウで見かけて“芽依に似合いそう”って思ってさ。適当なお店で買ったんだよね」
今度は澱みない口調だ。
でも、どこか取ってつけたようで言い訳がましい。
それなら“覚えていない”じゃなくて“店名を見ていなかった”と言う方が自然だ。
最初からそう答えればよかったのに。
(知らない……?)
自分じゃなくて殺した彼女の持ち物だから、ということだろうか。
いずれにしても十和くんは嘘をついている。
それは分かる。
(本当に────)
彼は殺人鬼なのかな。
好きになった相手を最終的には殺してしまうような……。
(でも確かに、少しも躊躇ってなかった)
少なくとも暴力に関しては、何の迷いもないように見えた。
だからって殺しもそうなのかと言えば、それはまた別な気もするけれど……。
「……あの、十和くん」
「何?」
彼は首を傾げつつ、鞄を置いてわたしの隣に腰を下ろす。
どきりとした。
いつでも殺せる間合いに入られた。
(怯んでる場合じゃない)
自分を奮い立たせ、平静を装う。
「十和くんの初恋ってどんなだった?」
あまりに予想外の質問だったのか、彼は一瞬きょとんとした。
「え? うーん、そうだな……」
記憶を手繰るように宙を見上げ、それから苦く笑う。
「よくある感じだと思う。そのときは小さかったから恋かどうかもよく分かんないで、後になって気付いた。結局伝えられないまま」
思いのほか甘酸っぱく、ほろ苦い。
その切なげな表情は、どうしても嘘には見えなかった。