スイート×トキシック

「……そうなんだ。ちょっと意外」

「そう?」

「うん、十和くんなら迷わず告白しそうだもん」

 わたしに何度も伝えてきた“好き”という言葉。

 遠慮や臆病(おくびょう)さなんて知らないみたいに、ただ気持ちをぶつけてきた。

 それとも想いを伝えられなかったのは、別の理由があるせいなのだろうか。

「それはね、知ったからだよ」

「知った?」

「そう。その人のこと好きだったけど、伝えられなかった。言いたくても言えなかった。そういう恋もあるんだって初めて知った」

 彼はわたしを見やり、(いつく)しむように微笑む。

「だから、伝えられるなら……その機会があるなら迷いたくない」

 じっ、とその双眸(そうぼう)に捉えられる。
 そのうち真剣な表情に変わっていた。

「!」

 床に置いていた手に、温もりが触れた。
 突然のことに小さく肩が跳ねる。

 見なくても十和くんの手が重なったのだと想像がつく。

 向けられる眼差しは熱っぽくて、毒だと分かっているのに逸らせなかった。

 カーテンの隙間からこぼれる光が辺りを舞う。



「芽依、好きだよ」

 ────わたしはまた、惑わされていく。

 その人がどうなったのか、どうして想いを伝えられなかったのか、ちゃんと聞くべきなのに。
 聞かなきゃいけないのに。

「……っ」

 ゆっくりと、十和くんの顔が近づく。

 でもそれは、わたしから理性を奪うほどではなくて。

「…………」

 唇が触れる前に、とん、と肩の辺りに触れた。

 押し返さなくても、それだけで彼は止まってくれた。

(拒ん、じゃった……)

 よかったのかな。
 自分を優先して。

 まとまらない感情が渦を巻き、心の中をかき乱す。
 ぐちゃぐちゃに溶けたチョコレートみたい。

 怖くて、不安で、何だか辛い。
 顔を上げられない。

 沈黙があまりに重くて、速い心臓の音に気圧(けお)される。



 ややあって、十和くんがわたしから離れた。

 手からあたたかい温度が消えたかと思うと、そっと立ち上がる。

「……ごめん」

 たった一言、今にも消えてなくなりそうな儚い声色をこぼした。

 残された余韻(よいん)を断ち切るように、はっと顔を上げる。

 部屋から出ていくその背を見て、もう彼を“怖い”だなんて思えなくなっていた。

(わざと……)
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