スイート×トキシック
「わたしの初恋……どんなだったかな」
「照れなくていいよ」
「そういうわけじゃないんだけど」
はっきりと覚えていないのだ。
今まで好きになった人は何人かいたけれど、その最も古い記憶は曖昧だ。
保育園の頃だっただろうか。
そもそも小さいときの“好き”は、どこからが恋なのだろう?
今でも分からない。
そんなことを考えていると、十和くんのかすかなため息が沈黙を割った。
「……忘れちゃったの? 聞きたかったのに」
「い、いいの。わたしのことは」
不満気な彼を横目に話題を変える。
「それより十和くんのことを教えて」
「いいよ。何?」
こてん、と首を傾げる彼の表情は穏やかで柔らかかった。
今なら何だって教えてくれそうな気がする。
ワンピースの血のことや殺人鬼かどうかを直接尋ねる勇気はさすがにないけれど。
でも、十和くんの初恋の彼女のことなら、少しくらい聞けないかな?
「初恋の話……」
「また?」
「伝えられなかったって言ってたでしょ。何でなのかなって────」
言いながら、はたと閃く。
もしかしたら、相手はもうこの世にいないのかもしれない。
十和くんが手にかけたという可能性もあるが、だとしたら“伝えられなかった”というのは不自然に思える。
伝えることも叶わないうちに、彼女が何らかの理由で亡くなってしまったのだとしたら。
(わたし、また傷を……)
「ごめん、こんなこと聞いちゃって! 十和くんに悲しいお別れを思い出させるだけなのに」
慌てて謝った。
自分の浅はかさとデリカシーのなさが嫌になる。
また、何にも見えなくなっていた。
「……ん? 芽依、何言ってるの?」
十和くんが不思議そうな顔になる。
「えっ。だって、亡くなってるんじゃ────」
「ないない!」
びっくりしたように手を振って否定すると、彼はおかしそうに笑った。
「何でそうなったの」
「……生きてるの?」
「もちろん。勝手に殺さないであげて」
色々な意味で驚いて呆気に取られてしまう。
だったら逆に失礼な勘違いをしていたかもしれないが、それを謝ることすら失念していた。
(生きてる……)
それが本当だとすると、十和くんが好きになった相手を最終的には殺してしまうような、サイコな狂愛主義者である可能性は低い?
はっとして顔を上げる。