スイート×トキシック

「わたしとその人以外には!?」

「え？」

「好きになったことある？　どんな人？　今どうしてるの？」

　立て続けに尋ねた。

　すべて余すことなく聞きたいのに、答えを待っていられないほど気が急(せ)いている。

「ちょっと待って、落ち着いてよ。芽依が興味持ってくれるのは嬉しいけど……急にどうしたの？」

「いいから……！　いいから教えて」

　この先のこと、何よりわたしの命に関わる大事なことなのだ。

　彼と彼が好きになった人の結末は、そのままわたしたちの末路を表しているかもしれないから。

　十和くんは困惑していたが、わたしの勢いに気圧(けお)されたようだった。
　素直に口を開く。

「……俺が好きになったのは、その人だけ」

　その声音に重厚感が増す。
　きっと深い思い入れがあるのだ。

　それでいて羽根みたいに儚げで、今にもどこかへ飛んでいってしまいそう。



「…………」

　ちく、と心の表面の部分に何かが触れた。

　薔薇の棘(とげ)が刺さったような、ほんの小さな衝撃。

　でも気付かないふりをするには少し、鈍感さが足りなかった。

(なに、この痛み)

　本気で分からなかったわけじゃない。
　先生を見て散々味わった感覚だから。

　ただ、どうして十和くんに────。

　顔も知らない初恋の彼女相手にこんな感情が湧いたのか、分からなかった。

「安心してよ」

　わたしの心情を知ってか知らずか、彼はにっこりと甘く微笑む。

「今は芽依しか見えない。俺が好きなのは芽依だけだから」

「…………あ、そ」

　素(そ)っ気(け)ないふりをして、顔を逸らした。

　そうでもしないと、自分の変化に耐えられなかった。
　受け入れられなかった。

　────悔しい。
　何でわたし、今ほっとしちゃったんだろう。

　いつもだったら、嫌悪感を覚えるだけで済んだはずなのに。

(少し調子を狂わされただけ……だよね？)

　だって、ありえない。

　こんな感情、先生以外に抱いたことない。
　よりにもよって十和くんに抱くわけもない。

「冷たいなー。聞いといてそれはひどくない？」

「……わたしが好きとか、そんなのは聞いてないし」

「あはは、確かに。でも聞かれなくても言いたいんだよ、何度でも。分かってて欲しいからさ」

「もう分かってるよ。痛いほど伝わってる」

　文字通り、痛いほど。

　彼の“好き”は一途で、甘くて、凶暴で、自分勝手で、痛くて、とてつもなく危険。

　だけど、ほんの少しだけあたたかくて優しい。

「え。……ってことは、芽依も俺のこと好きなの？」

「そんなわけないでしょ！」

　わたしの答えなど分かりきっていたかのように、十和くんは肩をすくめて笑った。

「…………」

　今度また同じことを聞かれたら、そのときのわたしは何て答えるだろう？