スイート×トキシック
十和くんが過去に好きになった人の持ち物だと思っていた。
そして彼女は殺されてしまったのではないか、と。
でも彼は、これまで好きになったのは初恋相手とわたしだけだと言っていた。
彼女は生きている、とも。
(わたしの推測が間違ってたの?)
それともやっぱり、彼が嘘をついているの?
(あのとき────)
わたしのために用意したというこのワンピースを、どこで買ったのか尋ねたとき。
『……ごめん、覚えてないや』
少なくともそれは、たぶん嘘だと思う。
その推測は間違っていないはず。
「何か隠してる……」
それは確かだろう。
そうじゃなきゃ嘘をつく理由がない。
どこから間違えたんだろう?
何かが間違っているから違和感が拭えないのだ。
十和くんが、好きになった人を殺してしまうような狂った人物だという推測。
(もし、かして)
“好きになった人”なんて括りはないのかも。
相手は誰だっていい。
偶然選ばれた人がターゲットになるのだとしたら?
どうでもいい人。嫌いな人。
時には好きな人でさえ、その餌食になるのかもしれない。
ワンピースの持ち主が、彼の初恋相手とはまた別の人なのだとしたら。
彼女は十和くんにとってどうでもいいか嫌いな人で、たまたま標的にされてしまっただけなのかもしれない。
「十和くん……」
眉根に力が込もった。
分からない。
この考えも間違っているのかも。
筋は通るし、これなら違和感も残らないはずなのだが自信が持てない。
十和くんがそんな人だとは思えないのだ。
彼を知るうち、そう思えなくなった。
この血だって、少し怪我をしたのが染みただけかもしれない。
(そうだよ)
殺されたんじゃないか、なんて発想の方が飛躍し過ぎていた。
彼を信じていなかったから、そんな残酷な考えが浮かんだのだ。
『芽依も俺のこと信じてくれるかなって、期待してたんだけどなぁ』
────ずき、と心が痛む。
(……ごめんね)
また、周りが見えなくなっていた。
自分のことだけを信じて、目を閉じて、耳を塞いで、内側に閉じ込もって。
「…………」
悶々とまとわりついてきていた色々な考えを振り払うように、ふるふると首を振る。
そうすると、目の前の霧がみるみる消えていった。
(何か、すっきりした)
はびこっていたもやもやや不安が、どこかへ吹き飛んでいった気分だ。
(なんだ……。ただ十和くんを信じるだけでよかったんだ)
それに気付いてしまうと、何だか凄く気が楽になった。
ワンピースを放るように床に置く。
わたしは晴れやかな気持ちで眠りについた。