スイート×トキシック
わたしはドアの前に立ち、こんこんこん、と叩いた。
「十和くん!」
こんなふうに呼びつけるなんて、ここへ来てから初めてのことだ。
最初は彼が来るたび憂鬱になっていたのに、自分から呼ぶ日が来るとは思いもしなかった。
「どうしたの? やっぱ具合悪い?」
すぐに飛んで来てくれた彼は不安気な声で言いながらドアを開ける。
「ううん、それは平気。ちょっとお願いがあるんだ」
「お願い? 何?」
────一旦、仮定しておくことにした。
ワンピースの彼女は殺されたのだ、と。
夢の中で見たとき、その後頭部に傷のようなものがあった。
服についていた血を見て思いついたのと同じ状態だった。
彼女は、何かで後頭部を殴られて亡くなった。
そして、もうひとつの仮定。
十和くんが誰彼構わず殺してしまうような、殺意と悪意にまみれた人物だという推測。
(彼女が十和くんに殺されたなら、十和くんから逃げろ、って言うはずだけど……)
そんな疑問は拭えないが、ひとまず置いておくしかない。
いずれにしても手を下している可能性は充分だ。
だから────。
「服ってこれ以外にはもうない? もしあるなら見せて欲しいなって思って」
クローゼットにあった女性ものの服。
この家にある分だけ、同じ目に遭った子がいるということ。
あのワンピースと同じように血がついていたりしたら、十和くんの罪を明かす証拠になるかもしれない。
ややあって、彼は微笑んだ。
「あるよ。もしかして、また着せ替え人形になってくれるの?」
「あ……、うん」
一瞬躊躇ってしまったものの、それを承諾することで要望を聞いてくれるのなら安いものだ。
「ほんと? じゃああるだけ持ってきてあげる。待ってて」
再びドアが閉まり、ひとりになる。
(やっぱりおかしい)
こと服に関しては、何だか詰めが甘い。
わたしが疑っていることを知らないから、油断しているのかもしれないけれど。
この家にある女性ものの服はわたしのために用意した、というのが彼の言い分のはずだ。
だとしたらわたしから言い出さなくても、自ら進んで持ってくるのが自然ではないだろうか。
(あのワンピースみたいに)
ほかにもあるなら、わたしが制服に着替えた時点でほかの服を勧めるはず。
本当にわたしのために用意したのなら。
(それとも、それもわたしへの気遣いだった?)