スイート×トキシック
当初、頑として制服から着替えようとしなかったから。
ワンピースに着替えさせたこと自体も無理強いだった、と負い目を感じていたのかも。
(分かんないなぁ……)
彼のどんな選択も合理的に思えてくる。
わたしが理由を探してあてはめてしまっているだけかもしれないけれど。
納得出来るほどの理由があるのもまた事実で。
切り崩せると思ったのに、どうしてあんなに余裕なんだろう。
ぞっとする。
何にしても最終的に殺してしまえばいい、と考えているからだとしたら……。
*
十和くんは両手に服を抱えて戻ってきた。
とはいえその量はクローゼットで見た分と相違ない。
あのときは暗かったから、ものまですべて同じかと聞かれれば自信はないけれど。
「どれにする? どれも似合いそうだなぁ」
十和くんはクローゼットを開けた。
ハンガーごと持ってきた服を1着ずつパイプにかけていく。
(何か……ばらばらだ)
服に統一感がない。
コーディネートをしているわけではないから、そのよし悪しがどう、という話じゃなくて。
誰かひとりのことを想って選んだとしたら、テイストなり色なりある程度のまとまりがあるはずだ。
でも、ここにある服にはそれがない。
系統も色味も入り交じっていて、寄せ集めといった感じ。
……重要じゃないから、それはいいのだけれど。
ただ、十和くんがわたしのために用意したものではないのだという確信が補強されただけだ。
(これぜんぶ……持ち主が殺されていたら)
20着に届くか届かないか、といったところだ。
そんなに殺していたら、さすがにもっと事件が表沙汰になっているはず。
(じゃあ、間違ってるのはその推測?)
分からない。
彼を前にすると、うまく考えがまとまらなくなる。
すべての服をかけ終えた十和くんがこちらを向いた。
にっこりと優しく笑いかけてくる。
「芽依はどの服に興味があるのかな?」
「…………」
慎重に見極めなきゃいけない。
閉ざされたこの狭い世界で、何を、そして誰を信じるべきか。
「ど、れ、に、し、よ、う、か、な」
……たぶん、もうあまり時間がないから。