四月のきみが笑うから。
光風

「ふざけないでよ!」


 放課後の中庭に響き渡る怒声に、びくりと肩が跳ねた。


 怒声は苦手だ。

 自分が怒られているかのような錯覚に陥ってしまうから。他人が怒られているところを見ると、なぜか自分も泣きたくなってしまう。


 つくづく運が悪いと、自分の不運にげんなりしながら足に力を込める。

 面倒なことになる前に、さっさとこの場から離れてしまおうと思ったのだ。


(花のことなんて、気にしなければよかった)


 最近、朝のルーティーンが崩れてきて、花のようすを見にくることができていなかった。


 だからと思って放課後に覗きにきたはいいものの、どうやらまずい現場に居合わせてしまったようだ。


 できるだけ関わりたくない。

 その一心で身を翻そうとした瞬間、「私はなにも知らないの……」とか細い声が耳に届く。


(あれ)


 その声をどこかで聞いたことがあるような気がして、踵を返そうとしていた足が止まる。

 影からそろりとのぞいてみると、そこにはよく見知った人物が立っていた。

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