四月のきみが笑うから。

「謝って。人の彼氏をとってごめんなさい、手を出してごめんなさいって謝罪して。あんたは立派な罪を犯したんだから」


 ピッ、と取り巻きのひとりがスマホのカメラを起動した。

 無機質な長方形の箱が、琴亜と瞳を合わせた。その他の子たちは、緋夏に視線を向けられ、慌てたように謝罪コールをし出した。


 そのコールに紛れるように、もう一度スマホが音を立てる。


 これじゃあまるで、いじめじゃないか。


 否、まるでじゃなくて、完全にそうだ。

 取り囲まれた琴亜の表情は見えない。


 けれど、きらりと光るなにかが地面に落ちるのだけは、この目ではっきりと見ることができた。


「私……謝らない」


 鈴のような琴亜の声が響く。

 それは、とても小さな、けれどたしかな拒絶だった。


 わたしには到底できなかったことだった。


「は? 何言ってんの?」

 
 途端に緋夏の眉間にしわがよる。

 そして、へたり込んだままの琴亜にじりじりと詰め寄った緋夏は、目線を合わせるようにしゃがんだ。
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