四月のきみが笑うから。

「生意気なんじゃない? 謝れって言ってんの。ごめんなさいって、それだけ言えば済む話でしょう?」


 怖いほど静かで、耐え難い口調だった。

 まるで自分がすべて正しいのだと、そう信じて疑わないような自信に満ち溢れた表情だった。


 どうかしてる。
 緋夏も、取り巻きたちも、わたしも。


 この場にいて、何もしていないだけで、わたしも同罪なのだ。

 いくら味方だと思っていても、叫ばなければ意味がない。


 顔をあげた琴亜は、まっすぐに緋夏を見つめてはっきりと首を振った。

 壁に隠れるように身を潜めるわたしにも、揺らぐことのない声が聞こえてくる。


「……そんなことしたら、私が悪いって認めることになるから、いや! 私は何もやってないから謝る必要なんてない!!」

「黙りなさい!! 生意気なのよ!!」


 その言葉を聞いて逆上した緋夏が、近くにあったホースを手にする。

 怒り狂ったその顔は、本人のものとは思えないほど醜くて、可哀想になるほど惨めだった。


 何をしようとしているのか、そんなものは深く考えなくても分かった。



『どうして謝るの? 瑠胡ちゃんは何も悪いことしてないのに』


『……そんなことしたら、私が悪いって認めることになるから、いや!』



 意味もなく、言われた通りに謝罪を口にしていたわたしにとって、彼女の強い意志は、ただただ眩しかった。

 正しさを貫くことを諦めないその姿勢は、強さは。


 どうしたら、手に入れることができるだろうか。


(そんなの、決まってる。自分で動かないと、人はいつまでも変われない)


 あの日、あの時、彼女がわたしに寄り添ってくれたから、わたしは沈みすぎることなくいられた。

 そして、自分を受け入れ、こんな自分を────少しでも、好きになることができた。
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