四月のきみが笑うから。


「やめて!!」



 取り巻きたちを押し避けて躍り出ると、驚いたように目を丸くした緋夏が、にやりと気持ち悪い笑みを浮かべた。

 そして、迷いなくホースの先をわたしに向ける。


「瑠胡、ちゃん……?」

「遅くなって、ごめん。酷いやつで、ごめんね」


 消え入るように名前を呼ぶ彼女は、ふるふると首を横に振った。

 そんなやりとりを、緋夏が面白くてたまらないといったように見ている。


「助けにきたヒーローのつもりかしら? 入学式の日、ひとりになりそうでビクビクしてたあんたを助けてあげたのは誰? 救ってあげたのは誰? 結局ウチらについてこられなかった落ちこぼれみたいだけど」


 小刻みに肩を揺らした緋夏は、それから天を仰ぐように大きく笑う。


「まったく、ふざけないで。弱い者ふたりがそろったところで、ちっとも怖くないの。残念ね」


 シャ────と冷たく、生ぬるい水が制服を濡らしてゆく。

 その間も、緋夏はずっと笑っていた。


 髪、顔、ブレザー、スカート、靴下、靴。


 順々に黒塗られていき、水気を含んで重たくなる。

 わたしの後ろでは、琴亜が「やめて!」と泣き叫んでいた。

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