四月のきみが笑うから。

「こわいんだ……自分で決めたくせにこわいんだよ、俺」

「受験することが、ですか」

「もっと広い全部のことが。その先で、将来の自分が本当に満足できるのか、分からなくなった」


 目の(きわ)が赤くなっている。

 こんなにも弱っている先輩を見るのは初めてだった。


「アイツだったら、なんていうかな」
 

 乾いたように笑う先輩は、今にも泣きそうな表情をしていた。

 そんな顔をする先輩を見るのだって、弱音を聞くのだってこれが初めて。

 弱さのかけらを微塵を見せなかった彼が、もう耐えられないとわたしに告げていた。


 アイツ。

 彼の口から出るその対象は、いったい誰なのか。もし、わたしの予想が当たっているのだとしたら。


「……弟さん、ですよね。先輩の弟の、ハクトくん」


 その名前を告げた瞬間、先輩の目が見開かれる。その表情を見て、確信した。ハクトくんはやはり先輩の弟なのだと。


 夢と現実は繋がっている。そんなファンタジーのような不思議な出来事も、今なら信じることができる。
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