四月のきみが笑うから。

「どこで、その名前を」


 信じられないといったように息を呑む先輩の額には汗が浮かんでいた。

 ここで焦ってはダメだと自分を落ち着けて、低いトーンのまま話を続ける。


「こんなこと、信じてもらえないかもしれないですけど」


 今から話すことは、『絶対』のない話。

 うそだと突っぱねられてしまえば、うなずくしかないような話であることは自分がいちばん分かっていた。


 なにせ、夢と現実の狭間にあるような話なのだから。


 だけど、先輩ならどんな話でも聞いてくれるような気がした。

 彼になら話してもいいと、過去を積み重ねてきたわたしが言っている。


「実は四月に入ってから、何度もみる夢があって。そこに、ハクト、っていう男の子が出てくるんです」


 あまりにも普通に会話できてしまう状況が、初めはただただ怖かった。

 ありえないほど"自然"な空間すぎて、現実(リアル)かと何度も疑ってしまった。


「先輩と、すごく似ていて。笑顔のつくり方も、言葉も、重なるところがたくさんあって。だから兄弟なのかもって、ずっと思っていました」

「そんなことが、あるのかよ」

「わたしも不思議なんですけどね。先輩とくるより先に、この海にも来ていました。ハクトくんと会うときは、必ずこの海が舞台なんです」
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