四月のきみが笑うから。
「琴亜ちゃん」
教室の戸のそばから声をかけると、くるりと振り返った琴亜ちゃんがパァッと顔を明るくした。
「ちょっと待ってね」と返してから、何やら物を鞄に詰めている。
数枚の手紙のようだった。毎日毎日大変だな、と半ば呆れながらそのようすを見ていると、ピロンとスマホに通知が届く。
【今日の夜通話できる?久しぶりに話したい】
それはよく知った親友からのメールだった。液晶画面に【彩歌】と、表示されている。
久々にみる文字の配列に、胸が躍る。
【もちろん!わたしも話したいって思ってた】
フリックする手が、はやくはやくと急かされるように動く。
迷わず送信ボタンを押すと、「ぽんっ」という効果音とともに、メッセージが送られた。瞬時に既読がつく。
そして、【また夜連絡する】というメッセージとともにスタンプが送られてきた。
「おまたせ! あれ、何かいいことでもあった?」
いつのまにか支度を終えたらしい琴亜ちゃんが、可愛らしく小首を傾げて目の前に立っていた。
「うん。中学時代の親友と、久しぶりに通話の約束ができたの」
「それはいいね。中学の頃の友達って、やっぱり大事な存在だからね」
「うん。離れてみて、初めて気づくよね」
何度も共感を示すようにうなずく琴亜ちゃんは、「あっ、それで何の用だったの?」と思い出したように訊ねてくる。
緋夏からの言葉をそっくり伝えると、「行きたい!」と目を輝かせた琴亜ちゃんはわたしの腕を掴んで廊下を歩き出した。
ふわ、とシャボンの香りが鼻先をくすぐる。