四月のきみが笑うから。
『次は桜舞〜、桜舞です。お降りの方は────』
あっというまに降りる駅に着いてしまった。いつもなら長く感じる時間も、今日はとても短かった。
「俺はもう一駅向こうだから」
「わかりました」
会釈をして席を立つ。ゆっくりと電車が止まって、プシューっとドアが開いた。ぞろぞろと人の波が電車の外へと流れ出ていく。
「じゃあまたな」
「本当に、ありがとうございました」
電車を降りようとした瞬間、ふと足が止まった。このまま帰ってはだめだと、誰かがわたしに告げていた。
訊きたいことをきかないで、本当に後悔しないのか、と。
……きっとわたしは後悔する。そんなのいつものことだ。
行動してもしなくても、どちらにせよ後悔する。けれど死にそうになったことに比べれば、そんなのちっぽけな後悔に過ぎないだろう。
そう思うと、なんだかきけるような気がした。鞄の持ち手を握りしめて、くるりと振り返る。
「あのっ、先輩。お名前、教えてくれませんか」
問いかけると、彼は白い歯を見せて笑った。太陽のような、という比喩はこの人のためにあるんじゃないかと錯覚してしまうほどに眩しい笑顔。
「新城琥尋。気をつけて帰れよ、瑠胡」
「……っ、ありがとうございます」
電車から降りると、タイミングよくドアが閉まる。小さな窓から先輩を見れば、微笑んだ先輩は小さく手を振っていた。わたしも会釈をして発車を見送る。
先輩を乗せた電車が小さくなって見えなくなっても、わたしはしばらくそこから目を離せないでいた。