四月のきみが笑うから。
桜人
 チリリリリ、と鼓膜を刺激する目覚まし音に意識が引っ張られていく。いつもは目覚ましが鳴る前に起きるのだけど、今日は少し遅かったらしい。

 なんだか変な夢をみたような気がする。どんな夢だったのかはあまり覚えていないけれど、誰かと会話していたことだけはぼんやりと覚えている。


「モヤモヤする……」


 思い出せそうで思い出せない。こういうときが、何気にいちばん不快なときかもしれない。思い出せない自分に苛立ってしまう。

 しばらく天井を見つめていたけれど、一向に思い出せないので諦めた。素早く身支度を済ませ、朝食をとってから玄関で挨拶をして家を出る。



 いつもよりゆったりとしたテンポで歩く。朝食がパンだったため、少しだけ時間に余裕ができたのだ。


「きれい」


 風に揺れる桜の花びらが何枚か落ちてくる。キャッチしようと手を伸ばしてみるけれど、なかなか掴めなかった。何度も手を開いては閉じ、開いては閉じとしているうちに、思っていたよりも時間が過ぎていたのに気付いて慌てて駅に向かう。
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