四月のきみが笑うから。
 移動教室、ペア活動、班活動。こんなものなかったらいいのにと、わたしは何度思ったことだろう。


「瑠胡ー、行くよ」

「あっ……はい…!」


 教科書の確認もままならない。呼ばれたほうを振り向くと、数人の女子が荷物を持ってこちらを見ていた。入学式の日に初めて話して以来、一緒に移動教室をしている緋夏(ひな)とその取り巻きたち。

 緋夏は入学してから一ヶ月も経っていないのに、すでに圧倒的な存在感でわたしたちのクラスをものにしている。慌ててわたしも荷物を持ち、彼女たちのほうへと駆け寄った。


「おそーい」

「ご、ごめんなさい」


 謝ると、「謝らないでよ。うちらが言わせたみたいじゃん」と呆れたように言われる。その反応が心底嫌そうで、言葉に詰まった。

 だったらその「おそーい」は何の目的で発されるのだろう。謝罪以外に、彼女は何を求めているのだろう。


 いちいちこんなことを考えてしまうくせが嫌いだ。わたしはつくづく面倒くさい人間だろう。


「今日って英語の小テだよね。まじで何のためにあるのって感じなんだけど」

「それなー」


 そんな意味のない会話がとなりから聞こえてくる。嫌がったところで小テストは逃げてくれないけれど、そんなこと彼女たちにとってはどうでもいい。会話の内容が大事なのではなく、会話をすることそのものが本来の目的なのだ。

 そしてそれができない人は、グループからの居場所をなくす。だからわたしはいつも必死に────。


「瑠胡もそう思うでしょ?」


 ぼーっとしていると、急に言葉が飛んできて頭が真っ白になる。

 いったい何のことについてなのだろうか。話題が変わっていなければ、小テストに関することだろうか。頭をフル回転させて、めいっぱいの愛想笑いを貼りつける。


「小テスト、そうだね。わたしも嫌かも」


 正直、テスト自体は別に嫌ではない。しっかり勉強していれば満点を取れるような、英単語のテストなのだから。

 けれどそれを正直に話せば、明らかに嫌な顔をされてハブかれるのは目に見えていた。だからここは適当に誤魔化して合わせておく。


 無理やり笑みの形をつくりながらそう言った途端、緋夏の眉間にしわが寄った。急な表情の変化に、背筋が凍っていく。


 何かまずいことをしたんだ、わたし。
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