四月のきみが笑うから。
「小テストじゃなくて、五組の古園さんが嫌いだって話をしてたんだよ」
「ちゃんと話聞いてる?」
「るこるこ乗り遅れ〜」
矢のように言葉が降ってくる。すかさず謝ると、また苛立たしげに「だから謝んないでって」と返された。そんな怖い顔をしていながら謝るなだなんて、そんなのどうしていいか分からなくなる。
「なんか調子乗ってると思っちゃうんだよね。自分で自分のこと可愛いとか思ってそうで嫌い」
「性格悪そうだもんね」
「ぶりっ子でむかつく。まあ知らないけど」
ためらいの欠片もなく、どんどん出てくる悪口。耳を通すたびに意識が汚れ、顔が歪むのを自覚する。お腹のなかが変な感覚に包まれていて、今すぐにでもこの場を離れてしまいたかった。
五組の古園さんをわたしは知らない。話したこともなければ、当然見たことすらなかった。
けれど、振り向いた緋夏に「瑠胡もそう思うよね?」と共感を求められて、言葉に詰まったのち静かにうなずく。
(ああ。これでわたしも立派な加害者)
この空間にいたくなくて、それでも逃げ出すことなんてできなくて、罪悪感がぐるぐると渦巻いていくのを感じながら教科書を持つ手に力を込めた。
うつむいていると、話題は恋バナへと変わっていた。けれど、キラキラきゃはきゃはとしたものではなく、緋夏の彼氏の愚痴を一方的に聞かされるといった形だ。半分惚気のようにも聞こえるそれを、取り巻きたちは必死に聞いていた。
この中に、本当にかわいそう、大変だと思って聞いている人は何人いるのだろう。まったく、仮面を被るのが誰も彼も上手だ。「追いラインがしつこいんだけどー」なんて言っている彼女は、結局のところ全然迷惑していない。むしろ"愛されている自分"を自慢したい。そんなふうに見えた。
はあ、とため息が落ちる。
一緒にいたくない。だけど、独りにはなりたくない。天秤にかけたときに、どうしても後者の方が重くなってしまう。
(だからわたしは変われない)
窓の外には沈む気持ちとは裏腹に、真っ青な空が広がっている。
そんな青にひとつだけぽっかりと浮かんでいる雲がなんだか今のわたしのようで、それでもあんなに伸びやかに漂うことなんてできなくて、やるせない気持ちを押し込めて再び笑顔の仮面を被った。
「ちゃんと話聞いてる?」
「るこるこ乗り遅れ〜」
矢のように言葉が降ってくる。すかさず謝ると、また苛立たしげに「だから謝んないでって」と返された。そんな怖い顔をしていながら謝るなだなんて、そんなのどうしていいか分からなくなる。
「なんか調子乗ってると思っちゃうんだよね。自分で自分のこと可愛いとか思ってそうで嫌い」
「性格悪そうだもんね」
「ぶりっ子でむかつく。まあ知らないけど」
ためらいの欠片もなく、どんどん出てくる悪口。耳を通すたびに意識が汚れ、顔が歪むのを自覚する。お腹のなかが変な感覚に包まれていて、今すぐにでもこの場を離れてしまいたかった。
五組の古園さんをわたしは知らない。話したこともなければ、当然見たことすらなかった。
けれど、振り向いた緋夏に「瑠胡もそう思うよね?」と共感を求められて、言葉に詰まったのち静かにうなずく。
(ああ。これでわたしも立派な加害者)
この空間にいたくなくて、それでも逃げ出すことなんてできなくて、罪悪感がぐるぐると渦巻いていくのを感じながら教科書を持つ手に力を込めた。
うつむいていると、話題は恋バナへと変わっていた。けれど、キラキラきゃはきゃはとしたものではなく、緋夏の彼氏の愚痴を一方的に聞かされるといった形だ。半分惚気のようにも聞こえるそれを、取り巻きたちは必死に聞いていた。
この中に、本当にかわいそう、大変だと思って聞いている人は何人いるのだろう。まったく、仮面を被るのが誰も彼も上手だ。「追いラインがしつこいんだけどー」なんて言っている彼女は、結局のところ全然迷惑していない。むしろ"愛されている自分"を自慢したい。そんなふうに見えた。
はあ、とため息が落ちる。
一緒にいたくない。だけど、独りにはなりたくない。天秤にかけたときに、どうしても後者の方が重くなってしまう。
(だからわたしは変われない)
窓の外には沈む気持ちとは裏腹に、真っ青な空が広がっている。
そんな青にひとつだけぽっかりと浮かんでいる雲がなんだか今のわたしのようで、それでもあんなに伸びやかに漂うことなんてできなくて、やるせない気持ちを押し込めて再び笑顔の仮面を被った。