四月のきみが笑うから。

『ここでは我慢する必要なんてない。ぜんぶ海が受け止めてくれるから』


 叫んでもいい。嘆いてもいい。
 ここは何をしたっていい世界。声を出したところで醒めないのだから。


『ぜんぶ吐いちゃいなよ。誰も(とが)めたりしないから。素直な気持ちを、ここでは出してもいいんだよ』

「素直な、気持ち」

『頑張りすぎてるからつらいんでしょ。発散どころがないと、壊れちゃう』


 それを聞いて、途端に唇が震えだす。

 ちらりとハクトくんをみると、彼はいいよ、というようにしっかりと頷いてみせた。


 大きく息を吸って、感情のままに声をだす。



「わたし、独りになりたくない! だけど無理してみんなに合わせるのは疲れた! もうぜんぶやめてしまいたい……!」


 濁流のように押し寄せる思いが溢れていく。今まで封じ込めてきた思い。

 それを今日はふたりのおかげで、こうして吐き出すことができている。


『そうだ。もっと言っていいんだよ。瑠胡ちゃんが我慢する必要なんてひとつもない。全部世界が悪いんだよ』

「悪口とか陰口とか、そんなのききたくない!! わたしに共感を求めてこないで! もう嫌なの!」


 響いたのち、静けさがおとずれる。
 漣の音が大きくなっていき、なんとなく夢の終わりが近づいていることを悟った。


『瑠胡ちゃんが困ったとき、つらくなったとき、いつでもここで待ってるから。無理して生きなくてもいいんだ。どんなにみっともない姿でも、死なないでいてくれれば、ただそれだけで』


 眩い光がわたしを包み込む。
 優しく背中を撫でられているような、そんな感覚だった。


 あったかい。優しい。


 ほわほわとした感情がわたしの心の中に入ってくる。

 静かに目を閉じると、意識が急激に吸い寄せられた。


 そしてこの青い夢から、醒める。
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