四月のきみが笑うから。

「今日はたまたま二枚持ってたから、こっちは使っていないの。少し冷やしたほうがいいかなって思って持ってきたんだけど、余計なお世話だったらごめんなさい」


 困惑したままハンカチを受け取って目に当てると、ひやりとした感覚が伝わってくる。


「考えるより先に身体が動いちゃうタイプなの。だからよくおせっかいって言われちゃう。でも今回だけは許してね」


 顔をあげると、にこりと笑みが降ってくる。


「あの……あなたは」


 同じ制服のはずなのにわたしよりもずっと似合っている彼女は、小さく歯を見せて笑った。ずっとにこやかな笑みを絶やさない彼女は、人を惹きつける魅力がある。

 いったい誰なのだろう。落ち着きようや雰囲気から、もしかすると先輩かもしれない。


「私、古園琴亜(ふるぞのことあ)。一年五組です」

「……え」


 古園。その苗字には聞き覚えがあった。


『小テストじゃなくて、五組の古園さんが嫌いだって話をしてたんだよ』

『なんか調子乗ってると思っちゃうんだよね。自分で自分のこと可愛いとか思ってそうで嫌い』


 以前、緋夏たちとの会話で出てきた女の子。


 五組、古園。

 たったそれだけのキーワードだったけれど、すぐにわかった。間違いであってほしいと願いながら、それでもどこかで悟っていた。


 だって可愛すぎるのだから。あの人たちの嫉妬の対象になってしまうのだってうなずける。
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