四月のきみが笑うから。
春雷
まるで地獄。
今のわたしの状況を一言で表すならば、それだった。
八時十五分をさす腕時計に視線を落としながら、耳だけに神経を集中させる。昨日遅くまでHSPについて調べていたせいで寝坊し、今も寝不足で頭が痛い。
周りの人たちの声が余計に大きく頭に響いて、うずくまりたくなるのを必死に堪えている。
「さーちゃんおはよー」
「シータいる? 数学の教科書貸してちょーだい」
「うわ、英語の課題プリントやってない! 誰か写させて」
ガヤガヤと喧騒に包まれる教室の前で立ち止まり、深い息をゆっくりと吐き出す。
この感覚は何年ぶりだろう。何度経験しても、絶対に慣れることはない。
誰も味方がいない場所に独りで立ち向かっていく勇気、というと、どこかのヒーローのように聞こえるけれど、現実はそんなに勇ましいものではない。
むしろビクビクと怯えているこの姿は、誰にも見せられないほど惨めだ。わたし自身、こんな自分がみっともなくて大嫌い。
となりを過ぎていくクラスメイトが、立ちすくむわたしに訝しげな視線を向けて、それから何事もなかったかのように教室を出ていく。
その扱いは、たとえるなら空気。
果たしてわたしの姿が見えているのか、そんな憶測すらきっと不要だろう。
どちらにせよ、わたしはそれらしい価値を見出してもらえなかったのだ。
カチ、カチと時計の秒針が時を刻んでいる。
(大丈夫。わたしは、だいじょうぶ)
心のなかで唱えながら、トントンと胸を叩く。
「お願い、強い自分出てきて」と内に秘めたもう一人の自分にノックをしているようだった。