四月のきみが笑うから。
「じゃあ僕たちはこれで。申し訳ないけど、部活に行かないといけないんだ」
鈴のような声が落ちてくる。男性にしては高く、はっきりと響く声だった。
そろりと見上げると、さらさらと髪を揺らしながら床に散らばった資料集を集める長髪の男性が、一瞬こちらを見遣った。透明な瞳と視線が絡まる。
「っ」
咄嗟に視線を逸らしてしまう。その間に素早く集められ、目の前に置かれた資料集。
「行こう」
そしてそのまま、長髪の男性は色黒の彼に声をかける。
一向に動かないわたしにずっと手を差し伸べていた彼は、小さくため息を吐いてその手を引っ込めた。そしてそのまま、「ほんと、悪かったな」と呟いて去っていく。
「……ふ、っ」
居心地が悪くて息苦しかった場所から一気に解放されたような気分になる。
無意識のうちに止めてしまっていた呼吸を何度も繰り返して、悲鳴をあげていた肺を酸素で満たした。
なんとなく分かっていたことだけれど、資料室のドアは古びていて建て付けが悪かった。
仕方なく、苛立ちに任せて半ば勢いで開ける。
鼻が曲がりそうなほどのほこり臭さに吐き気をおぼえつつ、はやく部屋を出たい一心で、資料を台にどさっと置いた。
(頼まれたことはやった。先生も、これで文句はないはず)
息を吐くのすら惜しくて、逃げるように資料室を出る。