四月のきみが笑うから。

 肩を上下させながら昇降口につく。

 やっとこの地獄の空間から解放されると思うと、全身の力が抜けていくような気がした。なんとか堪えながら外に出る。


 そのときだった。

 地面が割れるような激しい音とともに、大粒の雨が空から降ってきた。辺りが光り、直後雷鳴が轟く。木の葉の音と吹きつける風が不協和音を奏でて、灰色に覆われた空気を震わせていた。


「……あ、傘」


 小雨とは言えない雨量なのに、傘を持ってくるのを忘れていた。春だからと完全に油断していたのだ。ここまで激しく降られるとは思っておらず、落ち込んでいた気分がさらに降下していく。

 このまま雨が止むまで校舎で待とうかと思ったけれど、帰宅時間が遅くなるのも面倒で、その考えはすぐに消えてしまった。

 走ればギリギリ間に合う時間なのだから、ここは覚悟を決めて駅に向かうのが妥当だろう。


 体力が壊滅的なわたしにとって、駅まで走るということは思っていた以上に困難だった。ずいぶん走ってなかったせいで体力は底をついているのに、自分の力を過信していた。

 足を進めるたび、地面に溜まった水が跳ねる。容赦なく打ちつける雨は、制服も鞄も何もかも黒く濡らしてしまう。わたしの心でさえ、雨に黒塗られてしまいそうだった。


 肩で息をしながら必死に走る。遠くなのか近くなのか分からない距離で雷が響いている。目の前に落ちたらどうしようと、幼いときから変わらない思考を巡らせたまま、ただひたすら駅を目指した。
< 53 / 158 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop