四月のきみが笑うから。
「……いない」
けれど先輩の姿はそこにはなかった。叩きつけるような雨の音と、地を割るような雷だけが鳴り響いている。
それはまるで、わたしにすべての終わりを告げているようだった。
今日という日をどん底に突き落とすような出来事に、目頭が熱くなる。そのまま視界が歪んで、ホームに鎮座するベンチも、雨風で散る桜の花びらも、何もかもが見えなくなった。
どんよりと覆われた薄灰の空と滝のような雨、地に張りついた桜。目に映る景色は最悪以外のなにものでもなかった。けれど、景色などわたしにとってはどうでもよかった。
たとえ雨で濡れようと、湿気で髪がうねろうと、桜が見られなくなろうと、それらはきっと我慢できる。けれど、いちばんは。
先輩がいない。
ただそれだけの事実が、何よりも心を苦しめる。
「なんで……いないの、せんぱい……っ」
耐えられなくなった膝からガクッと崩れ落ちる。溢れる涙が、降りかかる雨に紛れて地面へと落ちてゆく。
暗くて、真っ黒で、息苦しい。色付いたはずの世界は、またモノクロに戻ってしまった。
嗚咽は雷雨が消してくれる。
涙は春雨が流してくれる。
わたしは幼い子供のように感情に身を任せて泣いた。必死に抑えようとしても溢れ出るそれは、もう止まらなかった。
そこからは、どうやって家に帰ったのかよく覚えていない。
ただ、夜通し雨が降っていて、その音をぼんやりと自室で聞いていたような気がする。
意識がはっきりとしてきた頃には、薄く澄んだ空気とともに、夜が明けていた。