四月のきみが笑うから。
朧月
それからしばらく、先輩は駅に現れなかった。教室でのわたしの立ち位置もとくに改善することはなく、もう諦めるよりほかなかった。
少しずつ上がっていた気持ちが、また一気に降下していく。気持ちの起伏に酔ってしまいそうだ。
最悪なことに、いくら寝ても寝た気がしない。眠りが浅いからか夢すら見られなくなった。夢はレム睡眠の時にみるものだというけれど、どうやらわたしがここ最近みる夢は違うらしい。
ぐっすり眠れた時にしか見られないらしいのだ。それは自分の体感覚的に、なんとなく気づくことができた。だからなおさら、夢という括りにしていいのか悩む。けれど初めから不可解な夢ではあったため、そんなものかと妙に納得してしまった。
布団の中で目をつむっても、一向に眠気がやってこない。仕方なく、適当にかけてあったカーディガンを羽織って、部屋を出る。息を潜めて覗くと、リビングでは両親がなにやら言い争いをしていた。
(またか)
内心でため息を吐きつつ、玄関へと足を進める。ドアを開けると、一気に夜がわたしを包み込んだ。ドアの開閉の音すら、母たちには聞こえないらしい。
そのことにどこか安心して、夜の世界に飛びだした。
夜は、街がガラッと顔を変える。
どこまでも静かで、ヒヤリとしていて、ふとした瞬間に消えてしまいそうになる。まるで自分という存在が夜の一部になってしまったみたいだ。
息遣いを消すほどの喧騒がない。
ひそめるように息をしながら、どこへという目的地すらなく歩いた。
ふと、公園の前で足が止まる。
昔、よく母と来ていた公園だった。