四月のきみが笑うから。
「乗りますか、乗りませんか」


 ヒッ、と喉の奥が締め付けられる感覚がした。空気の通り道を何か固いもので塞がれてしまったような、そんな奇妙な感覚だった。

 こんなところでモタモタしていたら迷惑極まりないことは分かっているのに、まったく足が動かせない。足が石になってしまったようだった。


 なんだよ、おっせーな。
 はやくしろよ、なにあの子。


 そんなことを言われているような気がして、呼吸が浅くなっていく。しだいに吸い込む量と吐き出す量の均衡が保てなくなり、ボロボロと涙が溢れ出した。


 恥ずかしい。惨めだ。もう、消えたい。
 やはりわたしは、さっき死んでいればよかったのだ。


 一度負の感情が生まれてしまえば、そこから戻ってくるのは非常に困難だ。感情曲線が落下傾向にあれば、わたしの場合はそこから落ちるところまで落ち込む。時間が解決しないかぎり、マイナスの沼から這い上がることはできない。


 青い目の男性は、黙り込んでいるわたしの顔を覗き込み、それから「乗りません」と告げた。再びドアが閉まり、何度聴いても慣れない、悲鳴のような音とともに電車が発車する。


 再び戻った静寂。
 嵐が過ぎ去ったあとのような気味が悪くなるほどの静けさのなかで、小さなため息が聞こえる。無論、そのため息の主は彼だ。
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