四月のきみが笑うから。

 夢をみるのは、久しぶりだった。

 ずっとよく眠れない日が続いていたから、ここ(・・)にくることも、久しぶりだった。


『瑠胡ちゃん。久しぶりだね』


 生々しい水の感触。

 煌めく水面から前に視線を預けると、薄茶色の髪がさらさらとなびいていた。


(どうして気づかなかったんだろう)


 初めて会った、その日から。

 気づくチャンスはきっといくらでもあったはずなのに。


「久しぶり、ハクトくん」

『なかなか来ないから、心配してたんだよ』


 ふはっと笑う顔が、また重なる。


『でも、心配する必要はないみたいだね。すごくすっきりした顔してる』

「え?」

『最初のころの瑠胡ちゃん、どんな顔してたか覚えてる? こんな死にそうな顔してたよ』


 手を使って萎れたような表情をつくる彼は、ニヤリと口の端を上げてからかうような笑みを浮かべる。

 怖くなってしまうほど白くて細い手足と顔。それでも違和感なくいられたのは、誰かによく似た美貌と夢のせいだろうか。


「ねえ、ハクトくん。教えて。わたし今日この海に来たの。誰とかわかる?」

『……知らないな』


 わざとらしく目を逸らされる。

 彷徨う視線が、ほとんど答えのようなものだった。


 言ってしまえば何かが変わってしまうかもしれない。

 そう分かっていても、静かに告げた。
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