四月のきみが笑うから。
荒かった呼吸が少しずつ落ち着いていく。そろりと視線を移すと、片手を伸ばしたくらいの距離を空けてベンチに座った彼は、ぼんやりと線路を見つめていた。さらさらと、艶やかな黒髪が風に揺れている。
「……あの」
とりあえず、お礼を言わなければ。水のお礼と、それから……命を助けてもらったお礼。
「ありがとう、ございました」
若干詰まりつつも、ちゃんと言葉にできたことに安堵する。いつもは言葉が詰まって出てこないから、なんとか声になったことに驚いた。彼はこちらを見ることなく、「それで」と呟く。
「……え」
「どうしたんだよ」
淡々とした口調で問われる。彼が言っているのは、先ほどの諸々だろう。初対面の彼に、あんなに情けない姿を見せてしまったのだ。罪悪感と羞恥が同時に押し寄せてきて、体温が上昇していく。
「『何でもない』は、なしだから。何かあるのは分かってる」
過度に心配や追及をせず、それでも話を聞く姿勢を見せる彼。なんというか、今まで出会ったことのない類の雰囲気に包まれている人だ。包容力のある人、という表現がしっくりくる。
「言いたくないならそう言ってくれたらいい。ただ、次の電車までわりと時間があるからな。話ぐらいは聞いてやれる」
だから何もないとは言うな、と。
その言葉と同時に、彼がこちらを向く。青く澄んだ瞳と近距離で目があった。
「……あの」
とりあえず、お礼を言わなければ。水のお礼と、それから……命を助けてもらったお礼。
「ありがとう、ございました」
若干詰まりつつも、ちゃんと言葉にできたことに安堵する。いつもは言葉が詰まって出てこないから、なんとか声になったことに驚いた。彼はこちらを見ることなく、「それで」と呟く。
「……え」
「どうしたんだよ」
淡々とした口調で問われる。彼が言っているのは、先ほどの諸々だろう。初対面の彼に、あんなに情けない姿を見せてしまったのだ。罪悪感と羞恥が同時に押し寄せてきて、体温が上昇していく。
「『何でもない』は、なしだから。何かあるのは分かってる」
過度に心配や追及をせず、それでも話を聞く姿勢を見せる彼。なんというか、今まで出会ったことのない類の雰囲気に包まれている人だ。包容力のある人、という表現がしっくりくる。
「言いたくないならそう言ってくれたらいい。ただ、次の電車までわりと時間があるからな。話ぐらいは聞いてやれる」
だから何もないとは言うな、と。
その言葉と同時に、彼がこちらを向く。青く澄んだ瞳と近距離で目があった。