四月のきみが笑うから。
言葉にすると、余計に泣きたくなった。
好きな人の夢は応援してあげたい。
だけどわたしなんかがそばにいたところで、マイナスにしか働かない。
これも、自分に自信がないせいだ。こんな半端な気持ちでそばにいたいだなんて、本当にどうかしている。
だから、自分から離れるべきだ。
『そんなふうに決めつけたらダメだよ』
「決めつけじゃなくて一般論だよ。先輩の迷惑にはなりたくない」
『アイツが言ったの? 迷惑だって』
目を逸らしたくなるほどまっすぐな視線で射抜いてくる。
その瞳の熱さが、また重なってしまう。
『アイツを見くびってもらっちゃ困るよ。なんでもうまくやるに決まってるじゃん』
「すごい……信頼してるんだね」
『別に、そういうわけではないけど』
「先輩、こんなに弟に応援してもらえて。いいなぁ」
家族愛、とか。
わたしの家庭はそういうのとはかけ離れているから、ますます羨ましい。先輩はたくさんの愛に囲まれて、あんなに素敵な人になったのだ。強くて、あたたかくて、わたしを救ってくれた大切な人。
そして目の前にいる彼もまた、四月のわたしを救ってくれたひとりだ。
「ハクトくん、夢じゃない世界で会おうね。ここでだけ会うのは嫌だよ」
そう告げると、彼の瞳に切なさの色が小さく混じったような気がした。
けれどそれは一瞬で、すぐに「うん」と返ってくる。
ぼやけていく視界の中で、ハクトくんが目を細める。そして。
『これだけは言えるよ。アイツは……琥尋は、誰よりも優しいやつだ』
そんな響きだけが、海に溶けて消えた。