四月のきみが笑うから。

「もう、会えない」


 目の前にいる彼から発せられた言葉が信じられなかった。

 ひどく冷たい声音で告げられる。

 「え……?」と声にならない声が口から洩れる。


 ベンチに座り、わたしに向き直った先輩は、色のない瞳でわたしを見つめた。


 最後に顔を合わせてから一週間とちょっと。

 せっかく久しぶりに会えたというのに、どうやら嬉しいと思っていたのはわたしだけみたいだ。


「約束は……? ブルーモーメント見るって、約束したじゃないですか」


 声が震える。

 縋るような気持ちで問いかけると、先輩は静かに目を伏せて「……悪い」とそれだけを呟いた。


「そんなの……あんまりです」

「自分勝手でごめんな。でも、もう決めたことだから」

「え……なんで急に? だって、この間まで」


 ──── 一緒にいたじゃないですか。

 そんな言葉は、声にならなかった。


 先輩の、突き放すような冷たい視線が刺さり、心臓が嫌な音を立てて、脳へと危険信号を送っているみたいだった。


「……悪い」


 いつも自信に満ち溢れていて、わたしの知らない世界を教えてくれて、何度もわたしを救ってくれた人。

 どんなときだって前を向くことを忘れない、そんな彼が。

 どうしてここまで追い詰められた表情をしているのだろうか。


 心底迷惑だと。

 そんなふうに、わたしを評価しているのだろうか。
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