四月のきみが笑うから。
「……もとに戻っただけ。なにも悲しいことなんてない」
愛なんてくだらないと。
はじめから、知っていたはずだ。
泡沫の夢に溺れて、感覚がおかしくなってしまった。
悲しいなどという感情は、とっくに消さなければいけないものだったのに。
もう、いっそ。
────死んでしまおうか。
あの日、彼と出会ったこと自体が、最初から間違いで。
とっくに消えていたはずの命は、奇跡的に今の今まで繋がれているけれど、もう必要ない。
カーンカーンと踏み切りの音がする。
少し前に時間が巻き戻されたような感覚だ。先輩という人に出逢う、その前に。
ぎゅ、と手に力がこもる。だんだんと息が上がって、ぷっくりと水滴が目に浮かぶ。
(線路に身体を倒すなんて、簡単なこと)
一度できたのだから、今回だってきっとできるはず。
ぎゅっと目をつむって、タイミングを待った。
すうっと息を吸うと、どこか懐かしい春の匂いがした。