四月のきみが笑うから。
ぐら、と身体が傾く感覚があった。まるであの時の繰り返しのよう。
(これで……楽になれる?)
そこにあるのは、死への恐怖か、それとも自由を手にする希望か。
わたしは目をつむったまま、黄色い線を越える────ことができなかった。
今のわたしの心にあるのは、前者だった。以前なら、迷いなく後者に背中を押されていたはずなのに。足が地面に縫い付けられたように、びくともしない。
プシューと目の前に止まった電車を見て、いつのまにか震えていた足の力が抜けた。
「君。大丈夫?」
空いた窓から、運転士が顔をのぞかせる。
へたり込んだまま顔を上げると、眉を下げた運転士の男性がこちらをじっと見下ろしていた。
「大丈……」
ふと声に出そうとして、言葉が止まる。
力なく首を振れば、焦ったように電車を降りた運転士が、目線を合わせてしゃがみこんでいた。
なになに?どうしたの?と車内が騒然としているのが分かる。それでも、いつかの日のように消えたいと思うことはなかった。
「すみません。少し……めまいがしてしまって」
「少し待っていてください。水を買いますから」
言い終わらないうちに、ピッ、と自販機が音を立てる。
差し出されたのは、以前先輩が買ってくれた水と同じものだった。