四月のきみが笑うから。
「ありがとう、ございます」
やけに呼吸が落ち着いている。脈拍も、普段通りの速さに戻りつつあった。
(わたし……ほっとしてる?)
あんなに死にたい、消えたいと願っていたのに、今はこうしてまだ心臓が鼓動を続けていることに、たまらなく安堵している。
────はじめてこんなにも、死ぬのが怖いと思った。
痛みが怖いのではなく、存在が消えてしまうことが、こんなにも恐ろしくてたまらなくなったのは、生まれてはじめてだった。
空の青さも、海の青さも、先輩の瞳の青さも。舞い散る桜も、緑の葉も、何もかも。
見ることができなくなるのだと思うと、この世界からいなくなるのが、ひどく怖かった。
「あ、でも、お金」
「いいんですよ。気にしないでください」
「いえ。また後日必ず返します。本当にありがとうございます」
頭を下げると、首を振った運転士は、「ご無事でなによりです」と、呟いた。
それだけで、きっと全てバレていたんだろうな、と悟る。
「乗車されますか?」
「はい」
頷いて乗車し、気づく。
電車を遅延させてしまったのではないか。
その場合、賠償金を支払わなくてはいけないと、いつか読んだ新聞記事に書いてあったような気がする。