大好きな義弟の匂いを嗅ぐのはダメらしい

夢みたい

「ふぅぅ……」
 
 なにかを逃すようにユーリスが息を吐く。
 私たちはぴったりとくっついていた。全身で彼を感じた。
 罪悪感もなにもかも吹っ飛ばすような喜びに包まれる。
 今この瞬間だけは、ユーリスは私のものと考えても許される気がして、彼にしがみつく。
 くんくん、すりすり。
 ユーリスの首もとの匂いを嗅ぎ、顔を擦りつけて、彼を堪能する。

(あぁ、これでリュクス公爵様に嫁いでも生きていけるわ……)
 
 そんなことを考えていると、私の中のモノがムクムクとさらに大きくなった。

「え?」
「あぁ、もう、アリステラ、いい加減にしてくれ」
「ご、ごめんなさい」

 またしてもやりすぎたようだ。
 シュンとして、腕も顔も離した。
 ユーリスは私の手を絡めるように握り、ソファーに押しつけた。

「……我慢できなくなる」

 低いかすれ声でささやくと、彼は腰を動かし始めた。
 奥までみっちり埋まっていたものをずるっと引き抜かれる。
 私の中がまとわりつくように、彼のモノを追う。
 まるで、私の心みたい。
 彼を離したくなくて、すがって絡みついて。
 さみしくなったところに、ズンと戻された。
 ふたたびユーリスに満たされる。
 
「あぁっ」

 歓喜の声をあげる。
 擦られたところが、突かれた奥が、気持ちよくてしかたがない。
 彼は何度もそれを繰り返した。
 そのうち、脚を持ち上げられて、挿入が深くなる。
 出し入れするスピードも速まって、私は翻弄された。

「あんっ、あんっ、あああ――っ」
 
 浮遊感を覚えるほどの快感に喘ぐ。
 甘い痺れが体の奥から全身に広がり、脳を侵していく。
 頭が真っ白になったとき、体の奥で熱いものが弾けたのを感じた。
 ピクピクとユーリスのモノが震えて、その刺激さえ気持ちいい。
 私で気持ちよくなってくれたのがすごくうれしくて、笑みを浮かべた。
 ユーリスも欲を吐き出して、落ち着いたのか、表情を緩めた。
 甘ったるく私を見下ろして、キスをする。

(キャー! 私の義弟ってば、なんてかっこいいのかしら! これ以上私を惚れさせて、どうするつもり!?)

 ときめきが止まらず、心臓が痛い。
 心臓が暴れているのと同じように、ユーリスのモノを咥えこんだままの私の中も大暴れで、ビクビクしていた。
 一気にまた彼のモノが大きくなる。

「えぇ!」

 驚いて目を見開くと、ユーリスが顔を赤らめ、そっぽを向いた。

「アリステラが悪いんだからな!」

 私はまた無駄に彼を煽ってしまったらしい。
 責任を取らせるように、ユーリスは腰を動かした。
 あっという間に、高められて、目の前がチカチカする。
 
 でも、快感が弾ける前に、ユーリスは私を引っ張り起こした。彼は私を抱きしめ、キスをする。
 舌を絡められて、強く吸われて、息が苦しい。
 どこもかしこもぴったりとユーリスにくっついていて、目もくらむような喜びに満たされた。
 その状態で、下から突き上げられて、究極の気持ちよさと酸欠で、私は意識を失った。

 次に目覚めたとき、目の前に麗しいユーリスの顔があって、にっこりした。
 なんて素敵な目覚めなんだろうとぼんやり考えた。
 私たちはまだ繋がったままだった。
 でも、場所はベッドに移動していて、二人とも裸だった。
 たくましい胸板が見えて、いつの間にかユーリスは男の人になっていたのねと実感した。

 私が意識を取り戻したのに気づいたユーリスは、ついばむようなキスをして、また腰を動かしはじめた。
 私の中は、すっかり彼のモノに馴染んで、悦びにうねっている。
 すぐに限界が来て、背中を反らすと、ユーリスも達したようだった。
 あまり汗をかかないはずのユーリスの額に汗が滲んでいるのが見えて、私は手を伸ばして、それを拭ってやった。
 ユーリスは私の手を掴み、鋭い目で私を見る。

「これでもうリュクス公爵とは結婚できないな」
「公爵様は処女にこだわらないんじゃないかしら?」
「処女にこだわらなくも、他の男の子を宿しているかもしれない女は娶らないだろう」

 口を歪めてユーリスが言う。そう言われて、初めて気づく。彼は何度も私の中に子種を出していた。
 
(ユーリスの赤ちゃんができているかもしれないの!?)

 想像しただけで、天にも昇る心地になった。
 顔がにやけてしまう。

「なんでそこでうれしそうな顔をするんだよ! 本当にアリステラがなにを考えてるか、わからないよ……」

 困惑した顔でユーリスがつぶやいた。
 でも、私だって、彼の考えていることがわからない。
 子どもができたら困るのは彼のほうなのに。

「もし赤ちゃんができてても、一人でも育てるから、心配しないで」

 ユーリスを安心させようと言うと、彼は思い切り不機嫌な顔になった。

「どうしてそんな選択肢になるんだ? そんなに僕と結婚するのが嫌なのか?」
「えっ? 嫌なのはユーリスのほうでしょ? 誕生日のリクエストは私と結婚しないことじゃないの?」
「はぁ? なんでそうなるんだよ! 逆だよ。僕はアリステラにプロポーズしようと準備していたのに」
「プロポーズ!?」

 信じられない言葉が聞こえて、私は目を見開いた。

「僕が必死で我慢しているのに、無防備にひっつかれて、どれだけつらかったかわかるか? アリステラはいつまでも僕のことをかわいい弟としか思ってないようだったけど。アリステラの好きと僕の好きは種類が違う。それなのに気軽に好き好き言ってきて……。何度襲ってしまいそうになったことか」

 このところ稀に見るユーリスの長舌に驚く。
 ありえなさすぎて、内容が全然頭に入ってこない。
 でも、その中のひと言に反応する。

「僕の好き……?」
「あぁ。アリステラが好きだ。姉弟としてでなく、異性としてアリステラを愛してる。どんなことをしても離さないから!」

 突然の熱い告白に、思考が固まった。

 ――アリステラが好きだ。アリステラを愛してる。

 信じられない言葉が頭の中で何度も再生される。
 
(どうしよう、これは現実なのかな? ひょっとして、まだ都合のいい夢を見ているのかな?)

 あまりにも信じられなくて、手の甲をつねってみる。
 ちゃんと痛い。現実だ。
 落ち着こうと、ユーリスの首もとに腕を絡ませて、匂いを嗅いでみる。
 くんくんくん。ユーリスの匂い。うん、現実だ。

 腕を緩めて、もう一度ユーリスを見ると、真剣な目のまま私を見ていた。
 遅ればせながら、ようやく頭が働いてきて、無上の喜びが爆発する。

「私だって好きよ、ユーリス! 弟としてじゃないの。あなたの匂いを隅々まで嗅ぎたいくらい好きよ!」

 できれば首もとだけでなく腋の匂いを嗅いでみたい。足はどんな匂いがするのかしら? きっとユーリスの匂いだもの、得も言われぬ芳しい匂いに決まってるわ。
 想像してうっとりしていると、彼がおそるおそる聞いてきた。

「それは……恋愛の好きってことでいいのかな?」
「もちろんよ! ユーリス、好きよ! 大好き!」

 私が言うと、彼はぱあっと顔を輝かせた。
 大好きな天使の笑みだ。
 こんなにうれしそうな顔を見たのは久しぶりだった。
 
「アリステラ、好きだ!」

 そう言って、私を抱きしめて、チュウゥと音がしそうなくらい深いキスをした。
 私も彼の頭を引き寄せて、それに応えた。
 
(こんなに幸せなことがあっていいのかしら?)

 胸がいっぱいになって、涙があふれた。

 何度もキスを交わすうちに、お互いの腰が揺れだして、また抽送が始まった。
 心が通じ合ったというだけで、何百倍にも気持ちがいい。
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