【受賞】コワくてモテる高杉くんはせわが好き。
第一章 コワくてモテる高杉くんの知られざる一面
〇学校・教室(三限目の終わり)
ガラッと扉を引いてせわが教室に入る。道端で手助けしたおばあちゃんにお裾分けしてもらった野菜の袋を抱えて。
せわ:高校二年生。ウェーブのかかった茶髪のロングヘア。お人好しで若干天然。
せわ「おはようございます〜」
先生「おそようだな、朝比奈。遅刻の理由は?」
せわ「おばあちゃんを助けてました」
先生:三十代後半男性。縁の太い眼鏡をかけている。
登校中、道端で大荷物を抱えているおばあちゃんを見かけたせわは、荷物を代わりに持って家まで送った。更に、家の電球替えに、掃除まで手伝ってから学校に来たのだった。
先生「そんな古典的な嘘が通用すると思っているのか? もっとマシな言い訳を考えろ」
せわ「ご、ごめんなさい……?」
ざわり。教室内がざわめき、生徒たちが内緒話をする。
女子生徒1「あれ、多分ガチだよね」
女子生徒2「せわなら有り得る。たぶんおばあちゃんと優雅にお茶飲んで来てるよあれ」
女子生徒1「お礼の野菜まで抱えちゃってるし」
せわは底抜けに人がいいことで有名だ。頼まれれば雑用でもなんでも引き受け、困ってる人なら誰でも見境なく声をかける。せわと親しい友人たちは、顔を見合せて呆れている。
せわは席に着いた。隣の席の親友麗子がこそっと話しかける。
麗子:黒髪ロングのクール系美人。ツッコミ役。
麗子「おそよう。おばあちゃんとは仲良くなれた?」
せわ「うん! みちこさんの育てたお茄子、すごく立派で……」
麗子「はいはいよかったね。あんたって本当いつもブレないわ」
せわ「……?」
貰った野菜の袋を机の横に置いて、教科書を開くせわ。
その様子を、遠くの席の理人は頬杖を着きながらじっと眺めていた。
〇学校・教室(昼休み)
親友の麗子と美波と一緒に、机をくっつけて弁当を食べる。せわが弁当箱をぱかっと開くと、丁寧に作られたおかずが見栄えよく詰めてある。
美波:茶髪ボブ。おっとりお姉さん系。
美波「わぁ、おいしそー。せわちゃんのお弁当、いっつもクオリティ高いよね。お母さんが作ってくれてるの?」
せわはちらっと教室の端の席に座っている理人を見たあと、曖昧に微笑む。
せわ「う、うん。そんな感じ……?」
麗子「なんで疑問形? うちは親仕事で朝早いからさ。羨ましい」
せわ「自分で作ってきてるの、ほんと偉いと思う!」
すると、理人が立ち上がり教室を出ていく。その後ろ姿を眺めながら、美波が興味深そうに言う。
美波「高杉ってさ、いつもお昼になるとどっか行っちゃうよね」
麗子「あー、屋上で一人でご飯食べてるらしいよ。なんていうかさ。群れないクールな感じが――」
美波・麗子「超かっこいいよね〜」「超かっこいい」(ハモる)
うっとりしている二人に対し、せわは気まずそうな顔をする。
せわ「…………」
麗子「何、その顔?」
せわ「う、ううんっ! かっこいいよね! 高杉くん!」
こくこくと頷いて賛同するせわ。
高杉理人。彼のことをこの学校で知らない生徒はいない。背が高くて彫刻みたいに整った顔立ちをしていて、運動神経抜群で成績も優秀。だけど、無愛想でちょっぴり怖い。ピアスの穴がいくつも空いているし、腕や足、顔にいつも傷がある。
実際はというと。ピアスの穴は年の離れた彼の姉に、寝ているときにいたずらで空けられたらしい。傷は飼い猫のミアにやられたものだが、生徒たちは喧嘩でできた傷だと誤解している。
また、美形だからこそ無表情でいると威圧的に見えるのだが、ファンの女の子いわく、それが「コワかっこいい」そうだ。
せわ(コワかっこいい……か。うーん、私のイメージと全然違うな……)
内心でそんなことを思いながら、苦笑するせわ。
麗子「マジで高杉は一生あの治安悪くてクールな感じを貫いてほしい」
美波「孤高の存在的なね」
せわは無言で弁当を食べ始めた。
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