【受賞】コワくてモテる高杉くんはせわが好き。
第四章 せわの弱い一面
〇せわの家・せわの部屋(休日)
乃亜と友人一人、麗子に美波、理人がせわの部屋でテーブルを囲っている。テーブルには、理人があらかじめ用意したたこ焼きプレートと生地、具があらかじめ用意してある。
乃亜「カンパーイ!」
一同「乾杯」
乃亜と美波がこそこそ話しをする。
乃亜「せわって実はすごいお嬢様……? 家大きいね」
美波「確かお父さんが何個か会社を経営してた気がする」
乃亜「あのおっとりマイペースは育ちがいいからなのか〜」
噂されていることを知らないせわ「?」
みんなでコップを合わせて乾杯。
乃亜「いやぁ、高杉って超家庭的なんだね。つか何そのエプロン」
理人「あー、これは昨年のクリスマスにせわからもらったやつ」
麗子「ははっ、せわらしー。おじさん天使? 何それダサっ」
せわ「ダサくないよ。可愛いじゃんおじ天」
理人のエプロンには、羽が生えたおじさんの謎のプリントが施されている。
乃亜「え、てか二人クリスマスも一緒に過ごしてる系?」
せわ「うん。家族が仕事でいないから……」
乃亜「ふうん。羨まし〜」
美波「そういえば、せわちゃんからお母さん話全く聞いたことないかも」
せわ「…………」
せわは親しい友達にも、母親が他界していることを言えていない。変に気を遣わせてしまう気がして。
理人(……友達に言ってないのか。おばさんのこと)
困っているせわの様子を理人が察した。
理人「せわ。プレート温まったから生地流して」
せわ「はーい。あ、えび冷蔵庫に入ったままだ」
理人「俺取ってくる」
せわ「二段目に入ってるから」
理人「了解」
理人が立ち上がると、乃亜も一緒に立ち上がる。
乃亜「うちも一緒に行く!」
理人「……一人で大丈夫だけど」
乃亜「遠慮しないで! さっ行こ行こ!」
ダイニングを出ていく二人を見送る。
〇キッチン。理人が冷蔵庫からえびの皿を取り出す。
理人(二段目……あった)
理人の服の裾を摘んで、顔を見上げる乃亜。
乃亜「あのさ、理人」
理人「何?」
乃亜「私……理人のこと、好き……かも」
理人「…………」
目を見開く理人。
乃亜「試しにうちら、付き合ってみない? もっとうちのこと知ってほしい。付き合ってから分かることもあると思うし」
そう言って、踵を持ち上げ、顔を近づける乃亜。理人はそれをかわし、淡々と答えた。
理人「気持ちはありがたいけど……ごめん。俺、好きな人いるから」
乃亜「そっ……か。もしかしてさ、好きなのってせわ?」
理人「…………」
沈黙で返す理人。乃亜は切なそうに俯き、裾から手を離した。乃亜が一歩下がる。ふと、彼女の視線がカウンターキッチンの横の棚に留まる。そこには、小さめの仏壇と、せわの母親の写真が。
乃亜「え……せわのお母さんって……」
理人は小さくため息をついた。
理人「本人はあまり周りに言いたくないみたいだから、見なかったことにしてやって」