【受賞】コワくてモテる高杉くんはせわが好き。
〇球技大会当日。体育館前。
美波「ふふ、せわちゃんすっごい嫌そうな顔してる」
体操服にポニテ姿のせわ。今日ははちまきをつけている。
せわ「だって球技苦手なんだもん帰りたいよぅ……」
ずーんと憂鬱な雰囲気が漂うせわ。
麗子「適当なタイミングで当たって外野に出ればいーじゃん」
せわ「運動音痴はね、そんな器用なことできないんですよ」
近くで派手な女子四人グループがはしゃいでいる。
中島乃亜:ツインテールのギャル。気が強い。
乃亜「今日はガチろ! せっかくなら優勝狙いたいし」
女子生徒1「乃亜、高杉いるからいーとこ見せたいだけでしょ」
乃亜「あは、バレた? 高杉ってとっつきにくいけどさ、この機会に仲良くなりたい〜」
女子生徒2「それは分かる」
乃亜「てかなんでサッカー選ばなかったんだろ?」
せわ(私のせいです……)
乃亜たちの会話を聞きながら顔をしかめる。
〇学校・体育館(球技大会)
男子生徒「よーし! とにかく鈍臭いやつから狙え! 朝比奈とか朝比奈とか朝比奈とか」
せわ「ひぃぃっ」
せわはとにかくのろまで鈍臭いので、こういうとき一番に狙われる。
男子生徒「――それっ!」
びゅんっと素早いボールが飛んでくる。せわは硬直してぎゅっと目をつぶり、ボールに当たる覚悟をした。
せわ(これ、顔が潰れるのでは……!?)
でも、予想していたような衝撃がなく目を開けると、目の前で理人がボールをキャッチしていた。はちまき姿がよく似合っている。
せわ(理人……!)
理人「目瞑ったら駄目だろ」
一言呟き、相手コートに投げ返せば、三人連続で命中する。
女子生徒たち「「きゃ〜!」」
女子生徒「高杉くんやばっ!」
理人が活躍する中、乃亜も好戦していた。
せわ(わ……乃亜ちゃんめっちゃかっこいい……! 体育会系女子って感じだ……!)
乃亜が男子からのボールをキャッチし、理人にパスする。
乃亜「高杉!」
上手い連携で相手チームの一人にヒット。乃亜がハイタッチを求めると、理人は無表情ながらそれに応えた。
――パンッ。ハイタッチの音が響く。
満面の笑みで理人を見上げる乃亜を見て、心がざわめく。
せわ(何これ……胸がざわざわする。なんか、すごく嫌だ……)
コートの隅でぼんやりしていたら、後ろに下がってきた乃亜とぶつかり、二人で転ぶ。
乃亜・せわ「「きゃっ――」」
せわ「いたた……」
乃亜「大丈夫!? ごめん、後ろしっかり見てなかった!」
せわ「ううん平気! 乃亜ちゃんは?」
乃亜「私も平……っ」
痛そうに顔をしかめ、右足首に手を伸ばす乃亜。捻ったようで赤く腫れている。
試合は中断。
女子生徒たち「大丈夫乃亜!? 保健室行った方がいーよ」
乃亜「やばいかも。立てなくて……」
乃亜は痛みのせいで立ち上がることができない。すると、理人が無表情のままやって来て、乃亜の前にかがんだ。
理人「俺が連れてくよ。中島さんが構わなければ」
乃亜「えっ、い、いいの……?」
女子生徒たちが歓声を上げる。理人は乃亜を横抱きにして、そのまま体育館を出て行く。
乃亜「……ありがとう、高杉」
理人に抱えながら顔を赤くしている乃亜を見て、せわの胸がずきんと痛む。
せわ(理人はいつも世話を焼いてくれるけど、たぶんそれは、理人が優しいから……)
試合が再開した直後、せわの顔面にボールが命中する。
せわ「へぶっ!」
男子生徒1「朝比奈が顔面でまともに食らったぞ!」
男子生徒2「セーフだ! 顔面セーフ!」
男子生徒3「いや見るからにセーフじゃないだろ。大丈夫かあれ」
女子生徒「せわちゃん大丈夫!? しっかり!」
どてんと後ろに倒れ、せわの鼻からたら〜と血が出た。