新月に薔薇は枯れる(The rose dies at the new moon)ー柊くんはヴァンパイア
「花びらを失敬して浮かべたら、一層美味しくなるだろうな」

「勝手に摘むなよ。大事に育てているんだから」

「そもそも、鍵が閉まっていて入れない」

「ヴァンパイアの噂、本当なんですかね?」

わたしは恐る恐る訊ねた。

「椿、信じてるんだ。かわいい」

笑いだしたのは、柊くんだった。

柊くんから椿と呼ばれ、わたしの胸はトクンと跳ねた。

さっき言葉を交わしたばかりだ。

「霞月。後輩をからかう暇があるなら、会計を手伝ってやって。計算、得意だろ」

「OK」

否定も肯定もしなかった-ーわたしはからかわれたんだと、柊くんから目を反らした。

柊くんは会計の先輩の隣に座ると、二言三言(ふたことみこと)会話して、帳簿を受け取った。

「ガンちゃんはホント、人使い粗いな」

言いながら帳簿を横目に、右手の指を高速で動かしていく。

「ちょっと、暗算? 大丈夫なの」

会計の先輩は不服そうな声を上げた。

「問題ない、7段だ」

柊くんは手を止め、静かに言って、計算を再開した。
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