冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない。
きっと、わたしの身長は157センチと小さいから、恐らく180センチは余裕で超えているであろう飛鳥馬様に抱き上げられると、今まで見えていなかったものが見えたのだろう。
綺麗なスーツに身を包み、闇夜に黒光りする高級そうな革靴を履いた飛鳥馬様が、ゆっくりと歩を進め始める。
そこにはやっぱり、荘厳で神聖な雰囲気が漂っていた。
飛鳥馬様がわたしの家の庭に敷かれた石畳の道を歩いていくと、さっきまでザワザワと鳴り止まなかった木々の音が一瞬にして鳴り止み、辺りは静寂に包まれた。
聞こえるのは、わたしと飛鳥馬様の僅かな呼吸音だけ。
木々たちはまるで、飛鳥馬様が道を通るためだけに鳴り止んだように静まり返っている。
そして、驚いたことにさっきまで激しい雷と共にこの街を覆っていた豪雨は過ぎ去り、綺麗な月明かりが雲の間から覗いている。
きっと、飛鳥馬様がこの夜の地に降り立ったから、激しく降っていた豪雨も、ザワザワと音を立てていた草木も、一瞬にして時が止まったようにその動きを静止したのだ。