冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない。
こんな恥ずかしいでしかない行為を涼し気なお顔をして命じてくるなんて。
並の皇帝でも、こんなことは命じないよ……。
今、わたしの中の飛鳥馬様が皇帝から鬼畜へと昇格した瞬間だった。
「は、はい……っ」
勇気を振り絞って、飛鳥馬様のお膝の上に跨った。恐る恐る、腰を下ろしてその上に座った。
飛鳥馬様との距離がゼロになり、心臓がバクバクと鳴って口から飛び出そうだ。
向き合って座ったせいか、飛鳥馬様の漆黒の瞳と視線が交わってしまう。
てっきり、困りきっているわたしを満足げな表情で見つめていると思っていたから、わたしはその表情を見て思わず目を見開いた。
豆鉄砲でも食らったような、拍子抜けしたお顔がそこにはあった。
「………え、?」
思わず、声が漏れる。飛鳥馬様が動揺したように瞳を揺るがすから、わたしも何かマズいことをしたのかと不安になった。