冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない。


まるで小さな赤ん坊が母親に甘えるような行動をしてきたので、わたしの顔も必然的に飛鳥馬様の首近くに触れる。



「ねぇ、あやちゃん。……今おれがしてることって、迷惑じゃない?」



今、飛鳥馬様がしてること……?

それは、こうして首に顔をうずめていることかな……。


それとも、わたしを連れ去っていること……?


飛鳥馬様の質問に、どう答えるのが正解なのか、こればかりは分からなかった。


だけど、唯一分かるのは、わたしにそう訊ねる飛鳥馬様の声音が、ほんの少しだけ暗めの気迫のない沈んだ声に聞こえたこと。


その声音からは、ウワサに聞く冷酷さは全く垣間見えなくて、戸惑う。


飛鳥馬麗仁というお方は、誰に対しても冷たくて、思慮のかけらもない残酷で横暴な人間なのだと、勝手に想像してしまっていたけれど……。


思い返せば、わたしが初めて飛鳥馬様に出会ったあの夜の日も、真人という男から救ってくれたのは他でもない飛鳥馬様だ。


その数日後、日が昇りきった世界になぜか飛鳥馬様がいて、わたしを路地裏に連れ込み勝手にキスをしてきた。

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